こびとカバほどもある大きなネズミがこちらを見ていた。
モルモットの仲間かも知れない。
褐色の毛並みの中に、ヨーロッパの王族の紋章のような模様が浮き出ている。
そいつが少し口を歪めて笑った。
口の中が赤いというより色褪せたピンクのようで、先が少し欠けた門歯が見えた。
ネズミの仲間のくせに、ミュウという猫まがいの鳴き声がした。
明らかに嘲笑とそれに少しの憐憫が込められていた。
何でお前ごときにと起き上がろうとするが身体が動かない。
どうしようもない脱力感の中でこれは悪夢だと思う。
悪夢なら放置すればいいと諦めがちに自分に言い聞かせる。
その途端に目が覚めた。
こないだの中秋の名月 も少し芸のある撮り方は出来ないのか
時計を見やると、眠りについてからまだ二時間ほどである。
頭がどんよりしているのはまだまだ身体が睡眠を要求しているからだ。
だが、眠ることが出来ない。
寝なければ、と思うと逆に眠ることが出来ないのだ。
母の病室から・1 左の山が岐阜城を擁する金華山
白昼夢のような空想の連鎖に身を任せる。
もし、時間を遡行することが出来たら・・。
もし、不可能を可能にする術を身につけたら・・。
つまらない連想が続くが一向に眠ることは出来ない。
シニフィアンの連鎖としての様々なイメージが立ち現れるが、それらは睡眠へと収斂されることなく、勝手気ままに暴走している。
あっという間に二時間ほどが経過する。
このままでは明日がピンチだ。
そこで起き出して、今宵二錠目の睡眠薬を飲む。
一度ベッドを離れた分だけ目が冴えてしまったようだ。
再び、言葉から言葉、イメージからイメージへのとりとめのない乱舞が始まる。
しかし、徐々にだが、追加した睡眠薬が効き始める。
母の病室から・2
六五歳を過ぎて大相撲の力士になった。
結構話題になったものだ。
しかし、この秋場所はどうも駄目だ。
初日からずーっと出ていないのだ。
星取り表には、「や・や・や」が並んでいるはずだ。
四日目、思い切って国技館へ出かける。
私を見かけて、若い衆たちに不安などよめきが広がる。
「親方を呼んで欲しい」というと一人がすっ飛んでいった。
やがて親方が出てくる。
どういう訳か国技館の周りは敗戦直後の焼け野原のように瓦礫の山である。
その傍に腰を下ろして親方と話す。
「分かっているとは思うけど・・」
と、親方が悲壮な表情とともに言葉を濁す。
私が知らないところでなにかが決められてしまったようだ。
電線心と秋の空
そのとき、瓦礫の山の一角に残っていた建物から、けたたましい騒音が聞こえた。
その建物はどうやら交番で、しかも今様のそれのように鉄筋作りではなく、トタン葺きかスレート葺きのようである。
なぜそれが分かるかというと、その屋根の上で、一人の男が奇声を発しながらまるでトランポリンのように縦方向に飛び跳ねているからである。
何を言っているかは分からないが、傍らの警官のそれは分かった。
「おい 待て! ここはアフリカではないぞっ!」
と、叫びながら、男同様に屋根の上で縦方向に飛びながら男を捕らえようとしていた。
しかし、警官の跳躍がボコッ・ボコッと萎縮したものであるのに反し、男のそれははるかにリズミカルで高く高く飛び跳ねるのだ。
野次馬が集まってきた。
ここで野次馬に私を目撃されるのは不都合だという判断があった。
そこで傍らの親方を振り返ったのだが、もはや彼の姿はなかった。
私は空疎なまま取り残され、叫びにならない叫びを上げたように思う。
私に会いに来てくれたアオスジアゲハ
撮影中はじっとしていてその後飛び去った
そこで目が覚めた。
合計睡眠時間は四時間半ぐらいであろうか。
私の場合は不眠ではない。
寝付きはいい方である。
問題は途中覚醒で、それから後が眠れないのだ。
秋場所も今日は五日目、こんな状態で土俵に登ることができるだろうか。
私には高齢者力士としての責任がある。
私をかばってくれたであろう親方にも、このままでは申し訳ない。
また、あの大ネズミに嘲笑されそうだ。
モルモットの仲間かも知れない。
褐色の毛並みの中に、ヨーロッパの王族の紋章のような模様が浮き出ている。
そいつが少し口を歪めて笑った。
口の中が赤いというより色褪せたピンクのようで、先が少し欠けた門歯が見えた。
ネズミの仲間のくせに、ミュウという猫まがいの鳴き声がした。
明らかに嘲笑とそれに少しの憐憫が込められていた。
何でお前ごときにと起き上がろうとするが身体が動かない。
どうしようもない脱力感の中でこれは悪夢だと思う。
悪夢なら放置すればいいと諦めがちに自分に言い聞かせる。
その途端に目が覚めた。
こないだの中秋の名月 も少し芸のある撮り方は出来ないのか
時計を見やると、眠りについてからまだ二時間ほどである。
頭がどんよりしているのはまだまだ身体が睡眠を要求しているからだ。
だが、眠ることが出来ない。
寝なければ、と思うと逆に眠ることが出来ないのだ。
母の病室から・1 左の山が岐阜城を擁する金華山
白昼夢のような空想の連鎖に身を任せる。
もし、時間を遡行することが出来たら・・。
もし、不可能を可能にする術を身につけたら・・。
つまらない連想が続くが一向に眠ることは出来ない。
シニフィアンの連鎖としての様々なイメージが立ち現れるが、それらは睡眠へと収斂されることなく、勝手気ままに暴走している。
あっという間に二時間ほどが経過する。
このままでは明日がピンチだ。
そこで起き出して、今宵二錠目の睡眠薬を飲む。
一度ベッドを離れた分だけ目が冴えてしまったようだ。
再び、言葉から言葉、イメージからイメージへのとりとめのない乱舞が始まる。
しかし、徐々にだが、追加した睡眠薬が効き始める。
母の病室から・2
六五歳を過ぎて大相撲の力士になった。
結構話題になったものだ。
しかし、この秋場所はどうも駄目だ。
初日からずーっと出ていないのだ。
星取り表には、「や・や・や」が並んでいるはずだ。
四日目、思い切って国技館へ出かける。
私を見かけて、若い衆たちに不安などよめきが広がる。
「親方を呼んで欲しい」というと一人がすっ飛んでいった。
やがて親方が出てくる。
どういう訳か国技館の周りは敗戦直後の焼け野原のように瓦礫の山である。
その傍に腰を下ろして親方と話す。
「分かっているとは思うけど・・」
と、親方が悲壮な表情とともに言葉を濁す。
私が知らないところでなにかが決められてしまったようだ。
電線心と秋の空
そのとき、瓦礫の山の一角に残っていた建物から、けたたましい騒音が聞こえた。
その建物はどうやら交番で、しかも今様のそれのように鉄筋作りではなく、トタン葺きかスレート葺きのようである。
なぜそれが分かるかというと、その屋根の上で、一人の男が奇声を発しながらまるでトランポリンのように縦方向に飛び跳ねているからである。
何を言っているかは分からないが、傍らの警官のそれは分かった。
「おい 待て! ここはアフリカではないぞっ!」
と、叫びながら、男同様に屋根の上で縦方向に飛びながら男を捕らえようとしていた。
しかし、警官の跳躍がボコッ・ボコッと萎縮したものであるのに反し、男のそれははるかにリズミカルで高く高く飛び跳ねるのだ。
野次馬が集まってきた。
ここで野次馬に私を目撃されるのは不都合だという判断があった。
そこで傍らの親方を振り返ったのだが、もはや彼の姿はなかった。
私は空疎なまま取り残され、叫びにならない叫びを上げたように思う。
私に会いに来てくれたアオスジアゲハ
撮影中はじっとしていてその後飛び去った
そこで目が覚めた。
合計睡眠時間は四時間半ぐらいであろうか。
私の場合は不眠ではない。
寝付きはいい方である。
問題は途中覚醒で、それから後が眠れないのだ。
秋場所も今日は五日目、こんな状態で土俵に登ることができるだろうか。
私には高齢者力士としての責任がある。
私をかばってくれたであろう親方にも、このままでは申し訳ない。
また、あの大ネズミに嘲笑されそうだ。
そして目覚めてシャンとした昨日、今池に行き、先ずは「王子」のポスターに対面し、夢の中での情景とさほど変わらぬ「北」という大標識のある今では誰も渡らない大歩道橋を起点にぐるぐる歩きましたが、出会えず。諦めて帰路につくと、ひよっこり「まんぷく」さんにであいました。「北」ではなく、「西」商店通でした。