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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

スケジュールロボット <2>

2006-10-19 17:42:54 | よしなしごと
 スケジュールロボット(以下スケロボと略記)なるものを奇妙な老婆から衝動買いしてしまったのは、去る九月の今池祭りのバザールでのことだった。
  その折りの詳細については以下を参照されたい。

http://pub.ne.jp/rokumon/?entry_id=364553 
 

 それ以来、ほとんど忘れていたのだった。
 ほとんどというのは、全くということではない。ときどき脳裏をかすめることはあったが、わざわざ引っ張り出してマニュアルを読み、操作するなどいささか面倒な気がしてことも事実だったし、また、それほど空いた時間もなかった。

 しかし、不思議に、突然気が付くと何にもすることがない、中途半端な空き時間が出来るもので、私が、そのスケロボを改めてとりだしてみたのもそんなときだった。
 無造作に古新聞に包まれた包装を解くと、そこにガリ版刷りのマニュアルらしきものにくるまれた不格好なブリキの人形のようなものが現れた。
 念のため、くるまれていた古新聞の日付を見ると、1972年9月30日のもので、「日中国交正常化なる」という大見出しが踊り、前日、北京で行われた調印式の模様が当時の田中首相と周恩来首相が握手を交わしている写真とともに伝えられていた。

 マニュアルは読みにくかった。ガリ版刷りでしかも青インクのそれは、所々かすれていたりした。それを何とか判読し、余分な文句や形容を除いてまとめてみたのが以下である。


        

このマシンとその概要

 これはあなたのスケジュールを管理し、その実現を支援するものです。
 ただし、単なるメモではなく、もっと積極的にあなたの定めたスケジュールの実施をサポートします。

マシンの機能

 前項で述べたように、どうしても今日消化しなければならないスケジュールをインップトすれば、それは必ず実現します。
 ただし、後述するような制限項目がありますので、それらは除外されるか、インプットしても無効になります。


予定のインプット

 今日一日の予定を具体的に音声でインプットします。ロボットの耳元で、出来るだけ明瞭にそれを述べてください。
 
 このマシンは、日本語版ですが、ある程度の外来語は理解可能です。
 ただし、新しい総理が(Who?)、自己の政策を曖昧に表明するために用いるような外来語は意味不明語とみなされ、多用すると故障の原因となります。
 
 なお、方言につきましては、東北弁、名古屋弁、関西弁、九州弁など、北海道から沖縄に至るほとんどの方言に対応していますが、2chのみで流通しているネットウヨ的ボキャブラリーや、名古屋市千種区今池五丁目**通り一帯のみで流通している狭域言語などには対応致しておりません。

インプット上の要件
 
 いつ、どこで、誰と、何を、どうするか(4W1H)を明確にインプットしてください。
 
 ただし、あまりにも物理的要件を無視したものは不可です。例えば、午後一時に南極でA氏に会い、午後二時には札幌の時計台前でB女史に会うといったものです。
 この場合には、移動に必要な時間も含めてインプットしてください。
 しかし、前のスケジュールなどが押した場合、多少の時空間の変形により、現行物理学では不可能なサービスを行いうる場合もあります。

 ダブルバインド(相矛盾する指令)は一切受け付けません。その場合にはマシンの自爆をも含めて故障を覚悟してください。

インプットの内容制限

 このマシンは、基本的には「ロボット憲章」に準じます。ですから、犯罪行為、人間を心身共に傷付ける行為、その他公序良俗に反する行為はインプット段階で拒否されます。
 
 あるいは、運良くインプット段階をパスしたとしても、途中で修正機能が働き、良からぬたくらみは実現しません。それらは、このマシン内の「倫理検討委員会」パーツによって判断されますが、それを除外することはマシンそのものの破壊以外に不可能です。

 なお、それぞれの年代に関する倫理観の変遷については、予め製造より100年間の変遷を見越したプログラムが編入されています。

マシンのメンテナンスとバージョンアップ
 
 メンテナンスは不要です。物理的な外圧などに対してはそれらを全て排除する機能を内蔵しています。
 バージョンアップもありません。先に見た「倫理委員会」パーツのように、状況に応じた自己更新を遂げる機能を内蔵しているからです。

最重要の注意事項
 
 このマシンに一度インプットした命令は、これを取り消すことや修正することは出来ません。
 従いまして、スケジュールをインプットする場合には、先ず自分の頭でしっかり先を見越して実施してください。

 最初に述べましたように、このマシンは「あなたのスケジュールを作る」のではなく、「あなたのスケジュールを管理し、その実現を支援するもの」なのです。


 では、このマシンの活用により、あなたの生活が合理的かつ順調に進むことを祈ります。


 ============================


 以上がマニュアルの概要であった。
 私は何かとんでもないものを手に入れたのであろうか?
 それとも、気休めサプリメントのようなものに過ぎないのであろうか?

 おそるおそるそのマシンを手にしてみた。ヘチャムクレのロボットは、気のせいか小馬鹿にしたような表情で私を見上げ、胸にはめ込まれた時計状のもののみがコチコチと、私のかすかな期待と、そしてそれを上回る不安とを刻み続けるのであった。

 さてどうしたものか。(続く かもしれない
コメント (3)    この記事についてブログを書く
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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (游氣)
2006-10-20 00:35:03
名古屋市千種区今池五丁目**通り一帯のみで流通している狭域言語とは一帯どんなのでしょうか。そこにオフィスを構えているので気になります。
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Unknown (六文錢)
2006-10-21 17:05:58
 あっ、そうでしたね。
 漠然とそのあたりを思い浮かべましたが、とりわけ貴兄を意識したわけではありません。

 方言以下の地域語というかスラングというか、共通の経験に基づかないと理解できない言葉というものがありますね。
 そんなものを意識しました。

 そういえば、宮沢賢治はそうした新しい言語というか単語を生み出す才に長けていたように思いますが・・。

 哲学者のヴィトゲンシュタインというひとは、「私的言語はあり得ない」と言っていますが、まあ、そうでしょうね。
返信する
Unknown (游氣)
2006-10-21 17:44:01
宮澤賢治は地名にエスペラントもどきの私的名称をつけて喜んでおりました。しかしそれを教え子との隠語にしたり、童話に用いたりして独特の世界を構築拡大し、彼なりに社会化したのですね。
時が流れて件のサカキバラ少年。彼も秘密の地名をつけて密かに愛用していたのですが、それは結局反社会的な範囲だったようです。
しかしそれは果たして私的言語だったのでしょうか。彼の中には幾多の人格が共存していたようですから、結局は私的言語ではなかったのでしょうね。

賢治とサカキバラ少年は妙に共通点を感じるのです。自己の思いを現象学的に克明に記録するところなどそっくりです。
その違いは何処にあるのか。興味深いものがあります。
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