先々週の土曜(17日)から3回変則連続のNHKスペシャルドラマ『海峡』、家族が第1回を観ていたので、ひきずられるように2回、3回を録画して一緒に観てしまいました。
ジェームス三木さん脚本の、戦中戦後女性の半生記かぁ…となんとなく大仰でくっさいお話をイメージしていたのですが、意外に抑制の効いた、メロとリアルのバランスのとれたドラマだったと思います。
朝鮮半島生まれの日本人ヒロイン・朋子に扮した長谷川京子さんがとてもよかった。どんな作品でどんな役柄を演じても演技力に疑問符がついてしまう長谷川さんですが、今作は時代の荒波に翻弄されながら、計算なくときに不器用に、その場その場を一生懸命に生き抜き、折れるより曲がることで気がつけば道が開けている…という姿がはまっていたように思います。
ひところは“顔だけのお人形”“棒読み”なんて酷評されていたけど、食うや食わずの戦後時代の下働きルックでもどこかヨゴレ切らない長谷川さんの綺麗さで、悲しいお話がずいぶん救われたし、ボロボロ号泣系のお芝居が得意な、たとえば菅野美穂さんや浅野温子さん辺りが演じていたら悲痛すぎて第2回の途中で脱落していたかもしれません。
この春の『華麗なる一族』での鉄平妻役でも感じたのですが、長谷川さんは現代のオシャレな女性より、古くさいが懐かしき昭和ワールドのほうが“綺麗なこと以外には特徴がない”という、考えようによっては女優として望める最高の美点の活きるタイプなのかもしれない。
昨年の昼ドラ『紅の紋章』でさしたる見せ場なく退場してしまった眞島秀和さんの朝鮮人青年・朴俊仁役もナイス起用。旧日本軍の教育を受け日本人の会社で働き、日本人女性を愛したことで戦後の韓国で波乱の運命をたどるのですが、この人、明るく幸せなシーンを演じていても、どっか不幸・悲運を予感させる風貌なんだよね。『怪奇大作戦セカンド・ファイル』epi 3での怪演を思い出すにつけても、これだけ芝居できる、そこそこ長身で端整で存在感もある人を『紅の~』は見事に鐚一文活かせず無駄遣いしたもんだなぁ。
強制送還されたきり消息のない恋人を案じつつひとり働く朋子に求婚する新聞記者役・上川隆也さんは儲け役。自分も生別バツイチ子持ちとは言え過去ある妻にこんなに理解ある旦那さんは居ないだろうと思う反面、朝鮮人と男女の仲だったというだけで朋子を蛇蝎のように嫌う姑(小山明子さん)と同居させ晩年は介護までさせてシレッとしている辺り、優しいんだか鈍感力なんだか。そこらへんは良くも悪しくもNHKドラマ的世界観の似合う上川さんの持ち味でしょう。
今年は年頭の『わるいやつら』の破滅色悪に始まり(演技としては一貫して同じなのが彼らしい)、月河はプチ上川イヤーでした。
最終第3回の、1回冒頭でもフィーチャーされた再会シーン、「お願いがあります…もうわたしの夢には出てこないで」「…わかりました、そうします」の絶妙の間合いで、高齢家族と一緒に泣いてしまいました。夢は見る人の願いが強いからこそ見るのであって、出てくる側からコントロールすることはできない。それは朋子も俊仁もわかっている。だからこその、半呼吸おいてのこの間合い。
お互いに消息がつかめないまま再会を焦がれ待ち侘びて、それぞれの国での現実を耐えて生きながら、何度も夢で通い合い、通ってくる相手を恨み、恨む自分を嘆く日々をそれぞれに重ねたからこそ、「出てこないで」「わかりました」の阿吽の応答が生まれる。
唐突ですが、10年以上前にドラマ『愛していると言ってくれ』の主題歌として大ヒットしたDREAMS COME TRUEの『LOVE LOVE LOVE』の一節を思い出しました。
「♪ねぇ どうして 夢で逢いたいと願う夜に限って 一度も出てきてはくれないね」
“夢で逢いたいと願う”のに“出てきてはくれないね”と託ち言を言えるうちは恋も甘っちょろい、泰平なものなのです。
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