イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

ひと言いっとく

2010-01-15 20:16:20 | 夜ドラマ

14日にやっと年明け初回(第11話)の『不毛地帯』は、いくらか出来が持ち直しました。217日のサウンドトラックCDリリースを意識してか、劇中の音楽の使い方も若干大胆になった。FORK社覆面調査団極秘投宿先のホテルにマスコミが嗅ぎつけて来ていないか、壹岐(唐沢寿明さん)配下の不破(阿南健治さん)と八束(山崎樹範さん)がロビーをスクリーニングして回る場面の音楽はいささかトゥーマッチでした。そんなにサスペンスにするシーンでもないのにね。

 て言うか、ほとんど“岸部一徳さんスペシャル”化してなかったですか。文字通り死んでも壹岐に手柄を立てさせたくない、死んでも死ぬ前に一日でも一時間でも社長の椅子に座りたい。里井副社長のこの執念、第11話に限って言えば実質主役と言ってもいいくらいの迫力でした。

 大門社長(原田芳雄さん)への電話での交渉報告の後、倒れた里井とネクタイをゆるめようとする壹岐の格好ったら。絞め殺し合ってるようにしか見えなかった(爆)。

壹岐にしても、亡き妻・佳子(和久井映見さん)への追憶、後ろめたさと綯い交ぜになったああいう夢を見るということは、出世出世のわかりやすいガリガリ亡者である里井に、己の中の自覚しない一面の投影を見ているのでしょうな。生粋の選良軍人教育を受けた壹岐のような男が、“手柄をあげ評価されて上の地位に上がる”ことに、きれいさっぱり恬淡無関心なはずがない。「キミは亭主を立てる良き妻のようだから、本当は出世したくてたまらないのだと、認めるように壹岐くんに言いなさい、副社長命令だ」と、自分ではなく佳子が里井から面罵され「副社長にお逆らいにならないで」と佳子から悲しげに懇願される悪夢は、壹岐の、日頃細心に折りたたんで秘めている潜在意識を表現して妙でした。

壹岐が里井の魂胆を承知しながらも承服できかねている裏には、経営不振ながら技術力は見るべきもののある千代田自動車を、極東進出に意欲的なFORKの軍門にまるっと下らせて、FORK絡みのおこぼれ商材で儲けられればいいという、小商人的な志の低さへの嫌悪感がありそうです。敗戦に立ち合い、11年のシベリア抑留という痛みを伴う責任も取らされた壹岐には、日本国の日本人の物づくり力と知力に対する負い目もあるが自負もある。自分なら日本人が作った自動車で、戦勝国アメリカともっと対等な、大きなビジネスにして見せるのに…という悔しさが、里井のなりふり構わぬ姑息的利益至上主義に反感含みの視線を向けさせ、その微妙な“上から目線”ぶりが「ボクに隠れてコソコソと…」とますます里井を刺激する。

まぁ、ここでの壹岐は、わかりやすい使命感とか、天下国家意識を持ったかっちょいいヒーロー像には描かれておらず、何らかのグランドデザインを持っているにしても、それらを部下たち相手に滔々と披瀝する的な表現はありません。そこがいいのですけれどね。

暮れの910話辺りでちょっともやもやしかけた旧・上官の遺児千里(小雪さん)との関係も、前述の亡妻が重石役で出てくる悪夢や、いつの間にかペアになっているグラスと、過日壹岐寝室で見つけた女の髪の毛とを結びつけて想像を逞しくし“先立たれた奥様に操を立てる立派なかたと思っていたのに、ベッドに女連れ込んで結局ただのオスだわフン”とばかり不快げな態度を隠さなくなったメイド(吉行和子さん)、千里の陶芸遊学中のガイド役を頼まれた塙(袴田吉彦さん)の「秋津さんと再婚する意志はおありなんですか」との問いに「…どんな形にせよ将来を見守ってあげなければと思っている」と、参謀流の婉曲表現ながら本音に近いところを吐露する壹岐…と、比較的すっきりした描写が続いて、靄が晴れてきました。千里にいま少し“亡くなってしまったから、逆に奥さんの存在が重くのしかかってきた”悩みや逡巡が垣間見えるといいのですが。

それにつけても、話が戻りますが、ここのところは本当に岸部一徳さんでもっているドラマになってますね。原田芳雄さんのガハハ社長っぷりもさすがですが。

昨暮れのNHK『再生の町』再放送に『相棒』元日SPと、ここのところプチ岸部さん鑑賞フェアみたいになっていたんですが、長身でヌウボウとした雰囲気の容姿といい、ここで何度も書いていささか失礼ながら基本的に“無表情役者”だと思うんです、岸部さん。

たとえば陰と陽、冷と温、硬と軟の振り幅が、広く大きいタイプの役者さんではない。

かと言って“どんな役を演じてもキャラや雰囲気がいつも一緒”という、“地のまんま”押しなタイプでもない。『再生』の寡黙で律義な地方公務員も、『相棒』のツッコミどころはあるが食えない腹黒官僚も、この『不毛』の小心でやっかみ上等な副社長も、しっかり違いはあるのですが、ものすごく狭いストライクゾーンの中での緩急、コースの出し入れです。

ひょっとしたら、ゾーン内出し入れすらしていないのかも。「いまのはインコースに見えた」「今度のはめっちゃ速いアウトコース真っ直ぐに見えた」と、観る側に“錯覚”させるのが上手いのかも。

現役時代、“星の王子様”の愛称があったオリックスの星野伸之投手は、細身の体型から繰り出すスローボールながら、現役時代を通じて高奪三振率に定評がありました。130キロそこそこしか出ない直球でも、さらに遅い80キロ台のスローカーブに織り交ぜることで、実際以上の豪速球と感じさせることができる。

星野投手は緩急差(正確には緩“急”ではなく、緩“超緩”差)の他に、ボールの出どころや握りをわかりにくくするフォームの工夫なんかもあったのですが、岸部さんの演技も星野投手のピッチングに相通じるものがあるような気がしますね。狭い振り幅を、出しようでどえらく広い落差に感じさせる。

ベースがローなトーンの声を、台詞の要所で裏返らせる発声の技術もあるかも。普段低音な人が急に一瞬カン高い声を出すと、怖かったりスリリングだったりしますよね。このへんはGS時代の音楽経験も活きているか。

ドクターストップがかかっているのに無理やり退院して帰国便に搭乗するラウンジでの「おかげですっかり元気になったよ」と壹岐たちにカラ元気を見せる場面、長身の背中の曲げ方加減もうまいですよね。クチは達者を装っても体はこたえているという感じがにじみ出ていた。容貌が茫洋寄りな代わり、この年代の俳優さんには珍しく身長に恵まれているのも大きい。

そう言えば、結構ホットな注目作に引きもきらず出演されているのに、番宣インタヴューなどにほとんど顔を出されませんよね。『徹子の部屋』とか『スタジオパーク』など。オファーはあると思うんだけど。

こうなるとなんだか里井副社長の今後が心配になるなあ。佳子役の和久井さんも「『ピュア』の優香ちゃんがいい女優さんになった」と感慨にふける間もなく退場してしまったし。無茶しないでもう少し長生きして鑑賞させて欲しいのですが。

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