イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

信さん淳さんノボさん

2009-12-01 16:32:40 | 夜ドラマ

NHKの歳末“主力商品”、『紅白歌合戦』と並ぶ西の正横綱格『坂の上の雲』1部第1話(1129日)、同局のいつにないなりふり構わぬ宣伝になんとなく“お祭り感”を刺戟されて、だまされたと思ってリアルタイム、フルで視聴してみました。

“遅れて来た正統派大河”という感触です。1985年の『春の波濤』や、90年の同じ司馬遼太郎さん原作『翔ぶが如く』などを思い出す。

筋立てとしては、幕末生まれで明治の近代日本草創期に青春を迎えた伊予・松山生まれの3人の下級士族子弟(のちの陸軍大将・秋山好古、その弟でのちの海軍中将・真之、のちの俳人・正岡子規)の人生行路を軸にしていますが、どこかのインタビューで真之役の本木雅弘さんが「あの時代の“日本”が主人公」という意味のことを言っていたように、人物の誰をフィーチャーとか誰に感情移入するとかではなく、“どんな家業家格の息子に生まれても、学問をすれば何にでもなれる可能性ができた”、前近代を脱皮して近代に向かう、黎明期の日本の気分を鑑賞味読する物語というべきかもしれません。

ロケ映像も美しく、どのシーンも隅々手をかけおカネをかけて作られたことが素人にもわかる重厚長大、熱く濃く深い作ですが、如何せん遅れて来たものはどこまで行っても遅れを取り戻せないなあと、一抹の寂寥感も否めない。やはり脚色原案の野沢尚さんがお元気だったならば実現したであろう、2007年より前に何としても完パケして放送にかけてほしかった。かけるべきだった。

何より主人公青年たちの、“成年男子ならば生計自立し一家を養うこと”と“自己(の希望・成り上がり野心)実現”と“日本を世界に誇れる国にする”とが三位一体渾然と相和し誰も何の疑問も持っていない、牧歌的なほどのポジティヴさが、リーマンショック醒めやらず雇用も景気も暗中模索の世に眩しすぎ、痛すぎ、一周回って寒すぎる。この時代から120年~130年ほどで、日本人の若者たちの“自分”と“国”とは完全に断裂、“自分”と“生活”すら軋み摩擦しています。

司馬さんのこの原作は1972年(昭和47年)に完結し、ご自身は96年に亡くなられていますが、司馬作品好きの政財界人、あるいは管理職OBのおじさまたちとしては、欲を言うなら定年後の年金や医療費、あるいは天下り先の不安なく悠々自適の日々を望むことができた頃に見たかったことでしょう。

現時点ですでに撮入り2年という真之役の本木さんと、好古役阿部寛さん、設定10代後半から20代の学生姿、書生姿にほとんど違和感がないのがすごいですね。196512月生まれの本木さん、撮影当時推定41歳か42歳。646月生まれの阿部さんは43歳になっていたかも。考えてみれば、撮影時点でリアル二十歳前後の俳優さんでは、この時代の斯くも“熱く濃い青さ”を表現できるツラダマシイの人が思いつかないんですな。阿部さんはキレイめ男性ファッション誌の看板モデル出身、本木さんは言うまでもなく『金八先生』の生徒役からシブがき隊と、ともに80年代から芸能キャリアを開花させている。90年代後半以降の、とりわけ男優ジャンルにおける人材育成不足がここへ来てジャブのように効いてきている感です。

正岡子規役香川照之さんも本木さんと同じ6512月生まれで、アラフォーでの明治青年挑戦となりましたが、こちらは東京大学を卒業されてからの役者ブレイクだったので、いちだんと老け顔大人顔のイメージが強く、学生役、文学青年役大丈夫かな?と思ったのですが、もともとの持ち味が強烈というより“役に沿って行く”タイプとあって、見ているうちにどんどん国語の教科書に載っている子規の写真に似てきました。

生前の司馬遼太郎さん、内容のスケールの大きさや舞台となる地域・国があまりに広範にわたることなどから、この作品に限っては映像化はいっさい断っておられたそうですが、今般ご遺族が「戦争賛美的なニュアンスにしないこと」を条件にドラマ化に同意してくれたと聞きます。底の見えぬ低迷の闇を行く時代の日本に、一度は本当にあった、この国の上り坂日の出の時代の物語。演じるはバブル期に花形モデル、アイドルユニットとして、あるいは暁星学園→東大の、梨園の直系御曹司としてブイブイ言わせたことのあるアラフォー俳優諸君。

この、音を立てて引っ攣れるようなリアル世界との乖離を、向こう3年間どうエンタメソフト化できるか。第三部最終話が予定される2011年暮れには「このドラマが始まった頃は、デフレで円高で雇用不安でどうしようもなくてさぁ、いまの安定っぷりがウソの様だねぇ」なんて回顧できるようになっているといいのですが。

EDクレジットの脚本には筆頭に野沢尚さんの名が。映像や演技などの出来ばえには、あの世からご覧になっても何の文句もなかろうと思いますが、“この時期の放送になって、この時期のお茶の間視聴者にどう受け止められるか”に関してはいろいろモノ申したい事もおありではないかと。一周回って、休んでもグレてもスキャンダル起こしてもいいから「とにかく生きて、作り続けて、完成を見とどけてほしかった」の思いがつのります。

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