本当に改めて、平成三十年の夏は異常気象と相次ぐ天災にあたふたリアクションしてるだけで終わったような気がします。
気がつけば夏とともに始まった新番組も、見逃し配信期間にフォローするのがいっぱいいっぱいで、あらかた脱落、もしくは見もしないうちに軒並み終わってしまいました。
いちばんしっかり全話視聴できたのが『探偵が早すぎる』(日本テレビ系木曜23:59~)。これはキャストをチェックする前に、設定がとにかく鉄板で面白そうなので食いつきました。普通、事件モノ探偵モノのドラマは、事件が起きてから、血が流れてから、死体が出てから話が動き出し探偵が出動して解決してナンボなのに、起きる前にムクムク行動始めちゃって事件を起きなくしてしまうという、言わば“探偵”という職業概念の存立にもとる設定。
んで、見てみたらやっぱり期待を裏切らずおもしろかった。見逃し配信があるならHDDの“場所をとる”必要もないだろうと、敢えて毎話録画はしなかったのですが、翌日配信が始まる時間が待ち遠しいくらいでした。
待ち遠しさの源泉の8割ぐらいは広瀬アリスさんだったような気がします。これを怪演と呼ばずして何が怪演かと。1話当たり10回ぐらい(少し盛ってる)何かに衝突したり転倒したり、うっかり自傷したりして痛い目に遭う(最初っから犯罪の標的になっている設定にもかかわらず、犯罪被害でなく痛い目に遭う件数の多いこと多いこと)のですが、その都度「い゛っ゛た゛ぁ゛ーーーい゛!」と腹の底から痛がってくれる、その声と顔で二度も三度も美味しい。あの声が耳に焼き付いて脳内リフレインしている、特に男子視聴者は相当数いると思われます。
アリスさん、個人的に顔と名前が一致したのは『相棒Season11』2013年元日SPのサブタイトルも『アリス』だったと思いますが(『不思議の国のアリス』の一節と挿絵がカギになるエピで、アリスさんは回想パートで死んでしまう役、現在時制のヒロインは2015年後期の朝ドラ『あさが来た』でブレイクする前の波瑠さん)、当時はエキゾチックな顔立ちが売りの、よくいる旬の短い美少女タレントとしか思っていませんでした。5年半後に、まさかこんな、顔芸上等のコメディエンヌに成長してお目にかかるとは夢にも思わなかった。
妹の広瀬すずさんは若きCMクイーンから、まさかのNHK朝ドラヒロインが決まってしまい、当分は国民的優等生女優の路線でいくのかもしれませんが、アリス姉さんはぜひもっとハジけてほしいですね。美人なだけの女優さんならすでにいっぱいいるし放っといてもこれからもどんどん出てくると思うので、アリスさんは“美人でハジけてる”方向で。若い女優さんが演技面、役柄面でハジけると言うとどうしても「露出」「エロ」「エッチ」方面にしか想像が行かなくなりがちですが、「おもしろくする」という方向もあるのだということを目にもの見せてほしいものです。
忘れちゃならないヒーロー役の探偵千曲川光(ちくまがわ・ひかる)役滝藤賢一さんは“普通にしてても怪演に見える”人だし、ダウントン・アビー風ロングスカート家政婦ルックで得意のキック格闘アクションばりばり繰り出す水野美紀さん、2サスから自由になって『スチュワーデス物語』を思い出してそうなドス声片平なぎささん、脇レギュラーの一郭にたまたま加わったドラマが超ロングランシリーズになってポリポリ美味しい神保悟志さん、「オマエが探偵されてる場合か」と言いたいハーフボイルド(@『仮面ライダーW)』桐山漣さん等、全員これ怪演の見本市。
事件は無事千曲川と、元その助手のアクション家政婦橋田(演・水野さん)がアリスさん扮する女相続人一華(いちか)を守り抜いて、悪の一族を追放(殺しはしないのが探偵のポリシー)し、一華の亡き母と探偵コンビとの因縁も明らかになってめでたしめでたしでしたが、何しろ相続財産が五兆円です。まだまだ新たな敵も現れそうで、一華も橋田さんに引き続き同居を望んだし続編はいくらでも作れそう。こういうドラマに遭遇すると、1クールせいぜい10話までって短いなと思うのです。ちょっと昔は普通に13話か12話はありました。
放送開始とほぼ同時に“チェインストーリー”という並行ネット配信で視聴者のスピンオフ願望をフォローしてくれていたのも有難いといえば有難いのでしょうが、月河はやはり「テレビのドラマはテレビでこそ一層おもしろくしてほしい」と思っています。ネットでしか見られないサブストーリーを作るマンパワーと時間があったら、いつもの枠で放送する正編を1話2話多く作ってくれたほうがいい。
五兆円相続した一華のもとに「宵越しの金は持たずに預けてファンドラップで」と持ち掛ける、日本製の拡大鏡をかけた怪しい男が現れて・・なんてSeason2はないかな。スポンサーの問題があるか。