もう終わって何日も経って、後番組も開始して快走中の、過去となり果てたドラマになんだけど、これだけは書かずにいられません。
馬か。
競走馬か。「テイオー」って。
「あらぁ、帝王」。白紙同盟真知子さん(マイコさん)の親父(平泉成さん)の百白花来店に、陽子(井上真央さん)のお迎えリアクション(@『おひ』)(←“さま”付けがもはや面倒くさい)。面と向かって。いつからこんなにフレンドリーな仲になったんでしたっけ。真知子さんの結婚拒否→須藤家お便所立てこもり→帝王手下と来襲ドア叩き壊して連れ戻しの一件は、もう微笑ましい昔話になったのか。
「あのときのテイオーったら、うちのお鍋で叩いたんですもんねぇ」「いやぁ悪い悪い、よく覚えてたなあ」なんてノリで。融通のきかない師範学校タイプだった井上さんの陽子が、鄙には稀な婀娜っぽさの熟年若尾文子さんの陽子にどうもつながらないなとずっと思っていたのですが、こういうノリがこの時期にすでにあったと想像するとつながらないこともない。一応、町長って、選挙で選ばれる公職なんだから、いまだに“安曇野の帝王”を名乗るのは金脈問題を誘発して議会でしぼられたりしませんかね。料亭やキャバレーでの「社長さん」呼びぐらいのモンかしら。老舗でもなくなった野っ原の、20余年後の“アンノン族”御用達みたいなラフな店で、陽子もこんなラフな接客するうちにくだけて行ったと思えばいいのか。
「あの人はその後こうなった、いまはこうしている」のナレとともに懐かし場面のフラッシュが流れた人物はともかく、流れなかった人物はそれなりの逝き方で彼岸に行ったと思っとけということなのか、いろいろスースー風通しのよすぎる、仮設住宅みたいな最終週でしたが、まぁとりあえず半年間お疲れさまでした。好むと好まざるとに関係なく日本じゅう震災復興一色、がんばろうムードに塗りこめられた時期に放送がまるごとぶつかって、スタッフもキャストの皆さんもヘンな緊張、なくもがなの気遣いを強いられたふしもあったのではないかと拝察します。
それかあらぬか最後のほうは、「帝王」呼びもだけどいきなり英語教師イイダコ太郎(近藤芳正さん)がジャズバンドマスターになって育子(満島ひかりさん)と再会したりなど、文字通りタコの糸が切れたかのようなネタ化も目立ちました。まぁあの人物もこの人物も、出しては放置、登場させられてはフェードアウトの連続で、ドラマ視聴していてこれ言うのは最大級の反則なんですが、「こんなホンなら月河でも書けるわ」と何度思ったことか。
人生も人間関係も、あらかじめ首尾一貫した線上につながって起承転結したり上昇したり堕落したりすると決まったわけじゃなく、その日その場で自分に、あるいは目の前にいる大切な人に、良かれと思った言動が、単発単発のエピソードを生む日々の連続。そんな日が何ヶ月、何年と積み重なって、気がつけば全体的に幸せらしきものになっている。そう思えばかなりリアルな…とまではいかないけど、無いこともない、昭和日本のどこかにいそうでいない、いなさそうで実は結構いる、庶民女性の一代記だったのかもしれません。
とにかくこの作家さんが、ここまで“白紙同盟”を愛しておられたとは思いませんでした。丸山家舅姑の晩年も、結局蕎麦打ちより作陶がライフワークになっちゃった和さん(高良健吾さん)の老後ヴァージョンも、東京で結婚したという日向子ちゃん(井上琳水さん→曽我美月さん)の大人ヴァージョンも登場せず、真知子さんが司葉子さん、育子(満島ひかりさん)が黒柳徹子さんになった、白紙同盟のシルバー版“銀紙同盟”が、最終話祝いの花環の様に乱入、「いちばん先に逝くのはイヤよ」「でも最後に残るのもイヤ」「二番目がいいわね」「ワタシも二番目」「ワタシも」という、笑えるんだか気が滅入るんだかわからんご長寿トーク展開、これがオーラスひとつ前のシーンになるとは。安曇野より、蕎麦打ちより、戦争を耐えた夫婦愛より、“女学生の友情”が大事だった様子なのです。
長兄の遺志を継いで、勉強苦手だったはずの次兄茂樹(永山絢斗さん)が復員後、人生の目標に医師を目指すという展開はかなり大きな脇ストーリーになると思ったんですけどね。教師退職してしまい夫婦善哉と子育てぐらいしか、ヒロインにはイベントがなくなった矢先でもあったし。
育子を黒柳徹子さんで出すなら、臥薪嘗胆めでたく須藤医院を開業した茂兄ちゃんのシルバー版も出して、“お似合い度”判定を視聴者に仰ぐべきでしたな。黒柳さんが文句言わなかったのかな。「若い育子にはこんな素敵な相手役がいたのに、アタクシになったらもう出てこないの?相手役はアタクシには要らないってこと?」とかって、あの声で。あのメイクで。「ココにアメ入れてあるんだけど、茂樹さん出してくれないならあげないワ」なんて。
誰がいいかな、シルバー茂樹役。森繁久弥さんとか。故人か。年齢逆転するけど、黒柳さんとの名コンビつながりで久米宏さんとか。震災にドンと寄付以後、動向聞きませんがお元気かな。
タモリさんとか。クチと料理が初期設定を超えて達者すぎるな。休診日はずっと密室芸。「須藤医院にはロシア人やベトナム人の患者も来てるらしい」と安曇野一帯でウワサになる。
草野仁さんとか。医専で解剖実習などするうち筋肉に興味を持ちすぎたか。完治した患者さんには“しげきせんせい人形”が1体ずつプレゼントされるらしい。
……バカなことばっかり考えてますが、視聴する側の関心体温の載りどころと、作り手が熱くチカラ入れたがっていたところとが、後半特に噛み合わなかった。白紙同盟への偏愛に端的にあらわれていますね。高圧帝王オヤジをものともせず、持たざるリーマン男性のもとに転がり込み結婚、男の子・実くんを産んで「孫可愛い」で帝王を屈服させてしまった“なにげに魔性”な真知子さんも素敵だし、世界を跳び回る育子はカッコいいし、受け身で目先限りの夢しか持てない陽子との好対照として機能はしていたけど、半年続いた物語のラス前シーンがここというのは、いささかバランスが悪い。ほかの、もっと愛され、劇中でも尊重され深く長く描出されていいエピや人物が軽視されて、もったいなかった。
←←左柱←←に載せた渡辺俊幸さんのサウンドトラックCD、リリースが6月と早めだったので、放送終了前に第2集リリースはないかなと期待したのですが、気がつけば8月頃からあまり耳に新鮮な曲も投入されなくなりました。1集きりで打ち止めで正解だったのかも。
良くも悪しくも掘り下げないほうが花なドラマ。最終話で富士子お祖母さま(渡辺美佐子さん)を足止めさせるべく、運転手神蔵さん(中原丈雄さん)の腹痛芝居アゲインは良かった。結局、故・桐野子爵より奥様の良きパートナーになってんじゃないかと思う「カミクラ。」、奥様との漫才映像も出せばウケたのにね。