から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

シン・ゴジラ 【感想】

2016-08-06 08:00:00 | 映画


失敗するのではないかという心配を一蹴。めちゃくちゃ面白いじゃないか。
日本映画としては文句なしに最高水準の作り。「ゴジラ映画」を期待すれば「否」、面白い日本映画を期待すれば「賛」。自分は後者の「賛」。まさかのポリティカルムービーに、公開初日にも関わらず劇場に響き渡るイビキの音。往年のゴジラファンと思われるオジサンたちの落胆ぶりも理解するが、それよりも自分は力強いドラマに感動してしまった。やはり庵野秀明が総指揮(監督)、脚本を手掛けたことが大きいと思われる。日本映画のアタリ年を証明する映画がまた1つ加わった。

未知の巨大生物が太平洋から日本の関東地方に上陸。「ゴジラ」と名付けた巨大生物による都市破壊を阻止しようとする、日本政府の戦いを描く。

本作はゴジラを科学する。ポスターに記載されていた「虚構」×「現実」という言葉のとおり、架空の生物であるゴジラが現代の日本社会の中に放り込まれたら、どうなるのかというシチュエーション劇となっている。ゴジラが起こすアクションと、それを受けた人間たちのリアクション。それらのすべての行動に頑丈な論理をもたせる。こんな怪獣映画は観たことがない。

映画の視点は終始、国を動かす政府にあり、政治家たちと官僚たちの奮闘が最初から最後まで描かれる。
列島付近の海上で突然起きた噴火。自然災害と判断する高官たちだったが、その後、巨大生物が姿を表し日本列島に上陸。暴れるのではなく、陸上を進むだけなのだが、その巨大さゆえに街は破壊される。前代未聞の有事に対して、政治家、官僚たちが休む間もなく対応に追われる。守るべきは国民だ。そのために彼らが下す判断の一挙手一投足を丹念に追いかけていく。おびただしい数の登場人物たちが入れ替わり立ち替わり登場し、専門用語を使った会話がハイスピードで交わされていく。目まぐるしく変わるカットと情報量のボリュームに圧倒される。その迫力とテンポの波に置き去りにされることなく、物語の中にグイグイ引き込まれていく。最近の映画だと昨年の「日本のいちばん長い日」に近い感覚だ。個人的には大好きなタイプの映画だ。

相手はありもしない架空の生物だ。にも関わらず、それに対抗するための準備、手段を徹底的なディテールで描き出す。それはまるでドキュメンタリーや再現VTRのようでもある。ゴジラはどんな生物で、どんな動機があって日本に来ているのか。ゴジラの実態を解明し、その撃退方法を研究し、科学的な根拠(これもフィクションだが)をもって、戦術をたてる。その戦術を実行するための政府の意思決定フローや、クリアすべき法の問題など、現時点における政府の機能や対応力がしっかりと押さえられる。ゴジラを標本としたい欧米列強の圧力も加わり、外交手腕までも問われる事態になる。「この国の強みは首相が良く変わること」など、日本政府への皮肉を交えたユーモアも差し込まれ見応えタップリ。その一方で、日本の政治周りの価値観を知らない外国人が観た場合、「?」となりそうで、非常にドメスティックな映画ともいえる。

国を動かす政治家、官僚たちのお仕事ムービーでありながら、彼らの最大の存在意義である「日本を守る」という理想にフォーカスしのが素晴らしい。パニック劇から希望のドラマへと見事に昇華している。ゴジラへの戦いを挑んでは、人知を遥かに上回る力に屈し、それでもまた戦いに挑んでいく。ゴジラの圧倒的な破壊力により多く犠牲者が発生し、その死をちゃんと悼む。機能不全となった政府のなかでは、傷だらけになりながら生き残った者たちでこの未曽有の危機を乗り越えようと尽力する。思いはひとつ、一致団結。浮上するのは日本の底力だ。ゴジラの存在を除けば、東日本大震災など過去に日本が経験してきた自然災害と重なる。ゴジラはまさにその象徴として描かれていると感じる。幸せだった生活が破壊され、たゆまぬ努力で復興を繰り返し、未来を切り開いてきた日本へのオマージュともとれる。「この国はまだ大丈夫だ」と発した主人公のセリフに思わず涙ぐんでしまった。

同じく本作を観た友人の感想は「エヴァ臭がキツくてダメだった」とのこと。エヴァンゲリオンをまともに観ていなかったので、自分はシンプルに感動できたのかもしれない。また、2013年のギャレス・エドワーズによるハリウッド版と比べると、CGのクオリティの低さは否めない。「あえて」というより、日本の技術力の問題だと思われるが、少々荒いクオリティも個人的には日本らしいゴジラになって良かったと思う。ただ一点、友人が「ハマった」と言っていた石原さとみは自分はNG。主人公の長谷川博己や竹野内豊の男前な顔立ちはさておき、多くのキャラクターが現実的な人物像を形成していた一方で、唯一アニメっぽいキャラで彼女が登場する(余貴美子も怪しいけど)。AEON仕込み(?)のネイティブではない英語力も手伝い、シリアスなドラマに彼女の存在が水を差した。おそらく彼女のキャラは意図的な配置だろうけど、自分はリアルに徹して欲しかった。

ゴジラというテーマを継承しながら、全く新たなゴジラ映画に刷新した本作は間違いなく「シン(新)・ゴジラ」。
映画はやっぱ監督の手腕が大きいと改めて実感した。エンドクレジットの完全な「あいうえお」順も印象的だった。

【75点】
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