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セデック・バレ 【感想】

2014-01-21 00:11:50 | 映画


その年の映画を語る上で、無視できない映画がある。
昨年の4月に公開した「セデック・バレ」もそうした映画の1つだろう。

本作を2013年のベスト映画に挙げる著名人も多く、
先日発表されたキネマ旬報ベストテンでも4位に入っていた。

気になる映画だったので、DVDレンタルで観た。
なるほど。。。特別な映画だということがよくわかった。
凄い映画だ。

本作は1930年、日本統治下にあった台湾で実際に起きた「霧社事件」を描いている。
本作で初めて「霧社事件」という史実を知った。
日本人でどれほどの人がこの事件を知っているだろう。。。

「霧社事件」とは、当時台湾で暮らしていた先住民族セデック族が、
現地日本人たちを相手に暴動を起こした事件だ。
その暴動により現地の日本人が100人殺され、その後の日本軍による制圧で、
セデック族の1000人近くが命を落とした。

どちらの攻撃においても、女、子ども関係なしの皆殺しだ。
銃撃戦以上に強烈なインパクトは、ナタによる斬殺。
想像することも恐ろしい凄惨な事件だった。

この映画が素晴らしいのは、そんな事件を、
反日映画としても、反戦映画としても描いていない点だ。

事件の引き金になったのは、とある日本人警官のセデック族に対する振る舞いによるものだ。
日本の侵略戦争の産物であることからも、悪者として日本人を描くこともおかしくないだろう。
しかし、本作はセデック族、日本軍、どちらかに正義をつけようとはしない。

セデック族という失われた民族たちの、文化・信仰に軸足を起き、
彼らの生き様の延長線上にあった史実を、圧倒的なスケールで描き切っている。

セデック族は狩猟民族で、狩り場(領地)に入ってきた人間を無条件に殺傷する。
他部族との争いは日常茶飯事で、彼らの姿は極めて好戦的で排他的に映る。
戦いの中で負かした、相手の首を狩ることを誉とし、首を持って帰れば、村中大騒ぎだ。

「野蛮」という言葉を通り越して、圧倒される。こちらの狭い価値観を叩き潰すようだ。
「虹を橋を渡る」という彼らの死生観含め、現代人では計り知れない世界が展開する。

彼らの儀式は相手を血祭りに上げることで清められる。
「霧社事件」も日本人への報復ではなく、その儀式のためという大義の上にあった。
実際のところはもっとシンプルな動機だったのかもしれないが、
そう魅せた本作の脚色は大いに成功していると思う。

欧米の映画では考えられないような描写にも踏み込んでいる。
静と動、どちらのシーンにおいても作り手たちの圧倒的な熱量を感じる。
プロの役者はひと握りで、主人公含め、キャストの多くがプロではない素人だったことも驚き。
クライマックスの怒涛の戦闘シーンは映画史に刻まれるだろう。
まぁーよくこんな映画を作ったものだ。。。。

しかし、その一方で気に入らないことも少なくなかった。

終盤の日本軍との全面戦争の折、セデック族が小が大を喰う的なゲリラ戦で応戦するのだが、
音楽の使い方含め、セデック族の活躍をカッコよく魅せようとする演出が鼻についた。
娯楽性を保とうとした結果かもしれないが、それまでパーフェクトだった世界観に水を差す。

そして、セデック族の登場人物の多さ、その人物描写のわかりづらさから、
正直、誰が誰だかよくわからなくなる。「あれ、さっき死んだ人では?」というシーン多し。

本編の時間についてもそう。前編と後編(DVD2枚)を合わせて、5時間弱の長さ。
2時間とは言わないが、 前後編を合わせて3時間くらいにはできたのはないかと思う。
編集力も作品力の1つだ。興味をもって観ようとする人の障壁にも繋がるだろうし、勿体ない。

個人的に手放しで絶賛できる映画ではなかったが、
近年、類を見ない凄まじい気迫をもった超大作だった。
その隠れた史実を知る上でも日本人が見るべき映画だと思った。

【70点】

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