
大人向けのファンタジー映画。少年と怪物との出逢いは、少年が大人になるための通過儀礼だった。善悪で割り切れない複雑さを人はどれだけ受け入れることができるか。苛酷な現実に浸食する物語の力は、主人公を傷つけ、そして癒すことができる。深い教訓を残す3つの物語と、4つ目の「真実」の物語に辿りつく過程を主人公の成長と重ねてエモーショナルに描く。物語シーンで挿入される水彩画のようなアニメ映像が見事で、残酷ともいえる因果の二面性をあぶり出す。樹木の怪物を演じたリーアム・ニーソンの声がめちゃくちゃ良い。
13歳の少年が、ある日、突然現れた樹木の怪物から、3つの物語を聞かされるという話。
原作が児童小説ということに驚く。この映画、子どもが見て感動できたらかなり早熟している。
「永遠の子どもたち」「インポッシブル」の2作だけでイッキにファンになったJ・A・バヨナの新作。昨年のスペインの映画賞(ゴヤ賞)でも最多受賞した映画ということもあり、昨年から日本公開を楽しみにしていた。観終わって、正直期待が高過ぎたと感じたが、シンプルに理解することが難しいテーマを、現実と虚構を行き来する難しい世界観で描き切った手腕はさすがだ。
悪夢に悩まされている主人公の少年は、睡眠不足でいつも目の下にクマを作っている。その悪夢の原因は愛する母親の病である。どの治療を試しても一向に回復せず、日々衰弱していく母親の現実に対して、主人公は認めることができず必至に抗う。学校にいけば、辛い家庭環境に追い打ちをかけるかのように、暴力的ないじめに合っている。不条理ともいえる不幸が、小さな少年の肩にのしかかっている。
そんな少年の前に、ある日突然、大きな木の怪物が現れる。夢の幻想物であることを少年は自覚しており、怯えることなく対峙するが、怪物は有無を言わさず、3つの物語を少年に聞かせようとする。そして、3つの物語を聞かせ終わった後、最後には少年から「真実」の物語を語らせようとする。少年と同様、観ているこちら側も「何のこっちゃ?」という感じだが、怪物が語る奇妙な物語に引き込まれていく。
寓話のような3つの物語に共通するのは、物事の二面性だ。いずれの物語も意外な結末を迎える。人間が下した決断による結果には、何が正しくて何が悪いのか、どちらかに区別できないものがある。必ず表裏が存在しているわけで、受け取る人の立場や境遇によって善悪のレッテルが変わっていく。それはときに不条理であったり、不道徳だったりする。肝心なのは、そうした二面性、物事の複雑さを受け止めて生きていかなければならないということだ。
少年は物語に翻弄される。そして大きな絶望に悩まされる日々の生活に浸食していく。物語にとりつかれ、自身をコントロールすることができなくなる。その一方で、物語は主人公を秘めた呪縛から解放する。物語は少年を喰う魔物であると同時に、少年を癒す魔法でもあった。
物事の二面性と、物語が持つ力。それらを怪物が現れた意味につなげていく本作は、単純なファンタジー映画ではなく、見る人の解釈によっていろいろな見方ができそうだ。メッセージは強く伝わる一方で、想像力の鈍い自分にはストンと明快に自身の感情に落ちてこないため、少年を通して描かれるドラマとシンクロさせることは容易ではなかった。
物語シーンで差し込まれる幻想的なアニメーション、現実と空想の境界の描き方、怪物が出現する迫力のスケール、少年の世界をジオラマ風に切り取ったユニークな映像、少年役のルイス・マクドゥーガルの繊細な演技、リーアム・ニーソンの深みと優しさを湛えた怪物の声など、映画館で没入する要素も多い。シネコンの大きなスクリーンで見たかったところでもある。
怪物と、怪物が話す物語の正体が明らかになるラストが、気持ちの良い余韻を残す。J・A・バヨナの映画はやはり好きだ。彼が監督する、ジュラシック・ワールドの続編、凄い良い映画になりそう。
【65点】
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