から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

ザ・トライブ 【感想】

2015-12-03 08:00:00 | 映画


新作DVDレンタルにて。ド肝を抜かれる。

不良少年たちの王国が築かれている寄宿舎で繰り広げられる仁義なき戦いを描く。登場人物たちはすべて聴覚障害者で、セリフは存在せず、キャラクター間のコミュニケーションはすべて手話で行われる。観る側は想像力を使って物語を追っかけることになる。カメラの長回しが多用され、展開に影響のない動作や取りとめのない会話(手話)もすべて拾われるうえに、その意味がわからないため、慣れない導入部分では少々面食らう。セリフがないので登場人物の名前すら最後までわからない。これで130分もつのか?と正直心配になるのだが、寄宿舎の全容が明らかになるにつれ、どんどん物語の中に引き込まれていく。

障害を持つ人たちを描いた映像作品はたくさんある。困難に打ち勝つ勇気、健常者との絆といった美談や、我々一般人と変わらぬ価値観(真実)を描いているもの、ハリウッドなんかは障害をコメディのネタにしたりもする。しかし、本作はそれらの過去作とは明らかに一線を画すものだ。誰もかれもが札付きのワルだ。「悪人」という言い方をしてしまうと不適当かもしれないが、その未熟さゆえか、他者への思いやりを感じさせる者はまったくおらず、もれなく利己に走る。少なくとも善人と呼べる人たちがいないのは確かだ。彼らを突き動かすのは欲望であり、それも金銭欲か性欲だ。暴力はリンチと強盗に使われ、セックスは売春と性欲のはけ口として使われる。本作の主人公と思われる転校生の少年は一見純朴そうだが、他者に負けず劣らずの強欲の持ち主で、その怪力も手伝い寄宿舎のヒエラルキーでメキメキと頭角を現す。その主人公の恋が物語に大きな転機をもたらすのだが、これを純愛と解釈するには抵抗感があるのも確かで、金で買ったセックスにはじまり、その後も恋した彼女の体をがむしゃらに欲する。彼女への思いやりよりも、主人公の下半身主導に映るのは自然な見え方だ。10代特有の本能として、それが「ピュア」と解釈できなくはないけれど。

本作のどの場面を切り取っても共感には繋がらない。だけども、引きつけられる。猛烈なスピードで交わされる手話による感情表現と、暴力とセックスによって摩擦される肉体の交わりが、言葉という音のない世界で鮮烈に響く。そして、そのアクションには痛みがあるから見過ごせない。強烈なのは、主人公が恋した女子の中絶シーンだ。ボロ家で麻酔なしで行われる施術の終始をカメラは映し出す。本作で唯一発せられる声が、その場面での彼女の苦痛による悶え声だ。まるで目の前で人間の肉体がナイフで裂かれるのを目撃するような感覚が残る。

言葉がないだけではなく、音が聞こえない世界だ。音が聞こえないゆえの悲劇と恐怖も同時に描かれ、ストーリーの進行に大きく作用していく。その恐怖をすくい取り、救いや希望といった概念を放り投げるようなラストが凄まじく、戦慄する。
規格外であり驚嘆した映画であったが、一部、長まわしによってすべての描写を追いかけることに必要性が感じられず、もう少し編集の手を加えれば、本作の躍動を集中力をもって感じられたと思う。あと、白ブリーフが脳裏に残った。

【65点】