新作DVDレンタルにて。
劇場公開で観られなかった「サンドラの週末」を観る。年内に観られて良かった。1つのストーリーからいろんな情景が浮かんでくる味わい深いドラマ。
太陽光電池を製造する工場に勤めるサンドラが、自身の解雇と従業員へのボーナスのどちらかを選ぶ投票を控え、投票権を持つ16人の同僚の元に自身への支持をお願いするために週末を使って訪ね歩くという話。
一度は投票によって解雇が決定したものの、その投票に主任といった上級社員からの圧力があったとして再投票にこぎ着けたところから物語が始まる。それが金曜日で、土日を使って同僚を訪ね歩き、月曜日の投票結果までが描かれる。たった4日間の出来事であり、サンドラと同僚たちのコミュニケーションだけで綴られる内容なのに、この物語の求心力は意外だった。人のリアルな感情の機微を丁寧にすくい取る演出が大きく作用しているのだろう。それは生々しく、ときにヒリヒリ痛い。おかげで自分とは全く境遇の違うキャラクターたちにもれなく共感し、「自分が同じ立場だったらどんな選択をしていたか」などと勝手に想像を膨らませ、見入ってしまった。
サンドラは藁をもすがる思いで、同僚たちに頭を下げる。16人の同僚たちは、サンドラとの関係性もまちまちで、仲が良い同僚もいれば、挨拶を交わす程度の同僚もいる。ただし、前者のサンドラと親交がある同僚であっても、それぞれに金銭的な問題を抱えていて「君には申し訳ないがボーナスが必要なんだ」と言う。しごく当たり前のリアクションであり、サンドラも自身の思いを伝えるものの無理強いすることは決してしない。サンドラも逆の立場であったら、ボーナスを選んでいたかもしれないのだ。なので、直接会って話すことはサンドラにとってダメ元である。
しかし、対面で会うことは実は大きな意味を持っていた。サンドラに対する隠れた感情や、元々抱いていた良心の呵責が呼び覚まされ、それぞれにとって「本当に正しいこと」を導き出そうとするのだ。サンドラの葛藤だけではなく、こうした職場の同僚たちの葛藤が描かれている点が本作を特別なドラマにしている。前段にあるべき背景説明を排除し、彼女と家族、同僚とのコミュニケーションが進行するなかで、彼女の知られざる人物像が明らかになっていく脚本も秀逸だ。
サンドラを演じるのはマリオン・コティヤールだ。昨年のオスカーで本作による彼女の主演ノミネートを当てたのが自分の密かな自慢であるが、それも納得の素晴らしい演技をみせてくれる。サンドラという女性がまさにいまそこで生活をしているという圧倒的な実在感。泣き虫で病気を煩っているという、演じなければならないキャラクターなのに、そのフリを微塵も感じさせない。演技をしない演技。女優とはこういう人のことをいうのだと感動した。
サンドラに待ち受ける結末は意外なものだった。そして、それ以上の意外だったのは彼女のリアクションである。彼女が微笑みながら最後に放った言葉に、この週末で彼女が得た別のモノが浮かび上がる。その瞬間、彼女を追いかけ続けていたカメラがようやく立ち止まり、歩き去る彼女の後ろ姿を見送る。その後ろ姿から、彼女の晴れやかな表情が確かに見えた。
【70点】