原田眞人が自身初となる時代劇を撮ったが、その面白さは健在。時代劇の深い味わいと、現代劇の娯楽性が仲良く手を繋いだ。日本映画としては稀有な、真に笑って泣ける映画だ。劇中のセリフを借りるならば『素敵』。
江戸時代、幕府公認の「縁切り寺」として知られた東慶寺を舞台に、そこに駆け込んできたワケあり女子たちと、離婚調停人として彼女たちの手助けをする、医師見習い兼、作家志望の男を描く。
冒頭、まず目に飛び込んでくるのは男尊女卑の価値観が沁みついた江戸時代の風景だ。何かしらの罪状を言い渡されたのだろうか、乱暴に縄に繋がれ、街中に晒される女性たちの姿から時代の闇が滲む。物語の主要キャラとなる鉄練り屋に嫁いだ「じょご」は、夫の浮気を目の前で見せつけられた挙句、暴力を振るわれ、奴隷のように扱われる。妻から「別れる」ことが認められなかった時代だ。虐げられながらも耐えることしかできなかった女性たちを想うと胸が痛む。ドラマ化もされた漫画「JIN-仁」をふと思い出す。
そんな中、女性たちを救済する寺が実在した。このこと自体が初めて知った史実であったが、その他にも、思わず「へぇ~」と呟いてしまう発見が満載で、非常に興味深い。綿密な時代考証をもとに製作されたのだろう。女性たちが離縁に至るまでのプロセスが丁寧に描かれている。女性たちが東慶寺に入る前には然るべき手順があり、そこで重要な役割を果たしていたのが「御用宿」というもの。今でいう家庭裁判所みたいなところで、女性たちの事情聴取から離婚の調整までを行う。そこで働くのは駆け込み女たちの強い見方となる宿主たちだ。堂々と時代の理不尽さに対して反目する彼らの姿が頼もしく、何とも嬉しい。
様々な事情があって駆け込む女たち。その背景の多くは深刻なものであるが、映画は女性を弱者として描くのではなく、女性の逞しさを描くことに注力する。じょごが自立心に目覚め、見違えるように成長する姿。じょごと共に駆け込んでくる、妾の女「お吟」の艶と粋(イキ)。それぞれを演じる戸田恵梨香と満島ひかりの確かな演技力も手伝って、彼女たちの姿が実にしなやかで魅力的に描かれる。また、「じょご」と「お吟」の2人の友情物語が胸を打ち、涙腺を刺激する。
物語の語り口は気負うことなく軽快で、ユーモアがふんだんに盛り込まれる。もう一度見たいと思わせる楽しい掛け合いが多いなか、「はちみつ」のクダリは抱腹絶倒の爆笑ものだ。おふざけによる笑いではなく、人間が持つ生真面目さの延長にあるユーモア。この辺の描き方は原田監督が得意とする部分であり、自分も『ド真ん中』でツボである。
時にシリアス、時にユーモア、時にスリリング。多くのイベントが待ち受けるが、印象的なのはそのテンポの良さだ。展開の余韻を切り上げるほどの見切りの良さが、本作においては確実に吉と出た。疾走感すら感じさせ、2時間半という上映時間があっという間に過ぎた。大泉洋演じる信次郎のキビキビとしたテンポの良い江戸弁も気持ち良い。
四季の美しさ、空間のマにあるワビとサビ。時代劇の旨みもしっかりと抑えてられている。そのうえで、信次郎とじょごのロマンスにも象徴されるように、ドラマの描き方は意外と現代的でとっつきやすい作りになっている。
年配層だけに支持されるには勿体ない傑作の時代劇だった。
【70点】