ウディ・アレンの新作「ブルージャスミン」を観る。
喜劇ときどき悲劇。のち喜劇。とても面白い。
金持ちの夫にぶら下がり、セレブ生活を謳歌していた女が、
夫の詐欺逮捕により、一気に転落していく様を追う話だ。
過去の栄光にすがり、現実を受け入れられずあがく姿を
シニカルな笑いたっぷりに描く。
セレブ時代、自分にとって都合の悪いことは見てみぬふりをする。
そこに他者への思いやりはなく、利己的な生き方を貫いてきた女だ。
一見「ざまあみろ」な女の転落劇だが、
転落のきっかけとなった真相が明らかになる終盤で、
まったく異なる印象と持つことになった。
コメディであるとともに、愛憎劇であるということ。
誰かに愛されることでしか生きられない人間の哀しさが浮上する。
元セレブの主人公の他に、腹違いの妹を物語の構図に据えたことが大きい。
妹はスーパーのレジ係をしている。庶民的で現実的。2人の子を持つシングルマザー。
やや品位に欠け、婚約者がいるにも関わらずパーティで知り合った男とセックス三昧。
主人公と対極にある生き方をしているようで、他者からの愛がないと枯れる。
主人公と同じタイプの人間と描かれる。
深読みもできる映画だと思うが、
コメディ映画として楽しむだけでも十分価値のある映画だ。
前回のオスカー賞レースで最も鉄板予想だったのが主演女優賞だ。
女優、ケイト・ブランシェットの真骨頂、ここにあり。
笑いと哀しみの境界線を渡る彼女のパフォーマンスに圧倒される。
元々、どんな役柄にもハマってしまう稀有な人だが、
本作ではウディ・アレンとの化学反応によるところも大きいと思う。
電話でやりとりをする一人芝居のシーンとか絶品。大いに笑う。
浮気性でどうしようもなく、無駄に余裕たっぷりな元夫役のアレック・ボールドウィンや、
珍しいビッチ役だが、さすがのコメディエンヌぶりを披露する妹役のサリー・ホーキンス、
典型的なラテン系男で愛に実直で可笑しい、妹の婚約者役のボビー・カナヴェイルなど、
他キャスティングもお見事で、映画の彩が一層鮮やかになる。
「ハッピー・ゴー・ラッキー」でオスカースルーされたサリー・ホーキンス、
本作で助演女優賞にノミネートされた。嬉しかったな。
何かと「ケイト・ブランシェット!」(ありき)な絶賛レビューが多いようだが、
ウディ・アレン演出も光った傑作コメディだった。
ロリコンのウディ・アレンは嫌いだけど。
【75点】