そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

「池袋チャイナタウン」 山下清海

2011-01-21 21:49:36 | Books
個人的に池袋は非常に馴染み深い街であります。
が、馴染みがあるのは基本的には東口側中心で、西口側といえば、マルイとか立教大方面とかはわりとよく知ってるけど、北口周辺というと以前からちょっと近寄りがたい雰囲気の繁華街で、高校生の頃ロサ会館でビリヤードやボーリングやったり、大人になってからシネマロサで何回か映画観たりとか、その程度。

その北口界隈がいつの間にかチャイナタウン化しているという話を知ったのはかなり最近のことです。
自分は2003年くらいまでは池袋をよく訪れてたんですが、著者が自身のウェブサイトで「池袋チャイナタウン」という名称を使うようになったのがちょうどその頃のことだそうです。
著者の調査によれば現在では飲食店を中心に200軒を超える華僑経営の店が存在するとか。

池袋チャイナタウンは、基本的に在日中国人同士の商売をする店が自然に集まって形成された街であり、横浜中華街のように観光地化していないところが特徴。
そして池袋チャイナタウンを形成しているのは、「新華僑」と呼ばれる、1980年代中国の改革開放路線転換以降に日本に渡航してきた新しい世代の華僑。
横浜中華街などの「老華僑」がすっかり日本人化しているのと違って、池袋の新華僑は中国流をそのまま日本に持ち込んでいる面が強く、マナーやしきたりを守らない点で地元の住民や商店主との距離感が遠い。
「東京中華街」構想を巡っての地元住民・商店主との軋轢は大きく報道されました。

(なお、本書によれば、唐突な「東京中華街」構想への地元の反発は確かにあったものの、基本的にはお互い共生を深めていきたいという思いは双方持っており、むしろセンセーショナルな報道によって政治団体などが集まってきてしまったことで反発がエスカレートしてしまった面があるとのこと。)

本書では、池袋の若い新華僑経営者たちへのインタビューが掲載されています。
親戚に借金して日本に渡航し、言葉もできない中で皿洗いのアルバイトなどで寝る間を惜しんで働いて資金を作り、起業して短い間に商売を発展させてきた彼らのハングリーな生き様には、日本人には真似できないダイナミックさを感じます。

そんな池袋チャイナタウンも直近では一時期の勢いを失っているとのこと。
低価格を競う過当競争で苦境に陥る店が増えており、また、以前に比べて不法な出稼ぎ渡航者が減って”健全化”した分、活気が損なわれた面があるそうです。
不法出稼ぎ者が減ったのは一見するとよいことのように思えますが、見方を変えれば、リスクの高い不法渡航をするほどの魅力が日本という国になくなりつつあることの裏返しであることも指摘されています。
最近では、東南アジアや欧米に出ていく新華僑が増えているとか。

実際にその場で暮らしている人たちには苦労も多いのでしょうが、このようなダイバーシティ溢れる場が日本に存在することは長い目で見ればよいことなのではないかと思います。
著者も、そのような混沌とした池袋チャイナタウンのあり方を愛していることがよく伝わってきます。
池袋チャイナタウンが現在重要な岐路に立ち、次第に衰退していくことが予感されることを悲しんでいるような雰囲気で本著は結ばれています。
が、万物流転、時の流れに応じたそうした盛衰も含めたダイナミズムにこそ価値があるのではないか…個人的にはそう思います。

池袋チャイナタウン ~都内最大の新華僑街の実像に迫る
山下 清海
洋泉社
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