そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

「バーナンキは正しかったのか?」 デイビッド・ウェッセル

2010-07-24 20:07:43 | Books
ウォールストリート・ジャーナルの経済担当エディターである著者が、ベン・バーナンキFRB議長を主人公に据えて、彼や、ハンク・ポールソン財務長官、ティム・ガイトナーNY連銀総裁(肩書きはいずれも当時)らアメリカ金融界のリーダーたちが、サブプライムローン問題に始まりリーマン・ブラザーズ破綻でピークを迎えた「グレート・パニック」に直面し、如何に苦悩し、如何に対処したのかを追ったドキュメンタリー。

いやー面白いです、この本。
危機に際して、アメリカ経済・政治の中枢で何が起こっていたのか、金融政策を学ぶ意味での知見が得られるというより、単に人間臭いドラマとしてムチャクチャ面白い。

ついに引き受け手が見つからずにリーマンが倒産し、CDS問題でAIGの深刻な経営危機に直面したあの2008年9月から、早いもので2年が経とうとしています。
AIG問題に続く、シティとの合併を破談にしてのウェルズ・ファーゴによるワコビア買収、金融安定化法の下院での否決・再可決など、今も記憶に新しい一連の激動を生生しく追体験することができます。

「●日後までに○百億ドル調達できなければもたない」とか「アジアの市場が開くまでに間に合わせるために日曜に声明を発表する」とか、とにかく短いタイムリミットで、何が正解かも分からないまま、法的・制度的にはギリギリの打ち手を次から次へと繰り出さねばならないわけで、深夜・早朝を問わず議論と厳しい意見調整を続けた彼らのタフさには感服させられます。

「グレートパニック」に挑んだバーナンキおよび彼のチームに対する著者の評価は、すべてを正しく決断したわけではなく、批判することはいくらでもできるが、仮に大恐慌研究の専門家であるバーナンキがFRB議長の立場にいなかったとしたらパニックはもっと深刻になっていた可能性は高い、といった感じでしょうか。

「グレート・パニック」後の「グレート・リセッション」は未だ収束の気配が無く、財務長官へと立場の変わったガイトナーやFRB議長を再任されたバーナンキの奮闘は今も続いており、ここにきて金融規制法の成立、バーナンキによる個公聴会での「景気懸念」証言、欧州での銀行ストレステスト結果の発表など、風雲急を告げる感もありますが、その舞台裏でどのような生々しい応酬が繰り広げられているのか…そんなことに思いを馳せたくなってきます。

バーナンキは正しかったか? FRBの真相
デイビッド・ウェッセル,若田部 昌澄,藤井 清美
朝日新聞出版
コメント
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