デンデラ佐藤 友哉新潮社このアイテムの詳細を見る |
設定は抜群に面白い。
陰湿な共同体のルールに、無批判に思考停止したまま生きてきた主人公が、想像だにしなかった異世界に放り込まれることで生じる精神の葛藤…という深い人間ドラマ、心理劇を出だしでは期待させられたのだけれど、底の浅いエンターテイメントに終始してしまったのが極めて残念。
この小説もまた描写が過剰だなあ、と思う。
特に、羆(ひぐま)の主観パートまで設けられているのには辟易で、どうしてこんなに「わかりやすさ」が志向されるのか理解に苦しむ。
主人公・斎藤カユという異分子がデンデラの住民になるやいなや、次から次へと災難が降り注ぐというのも、如何にもご都合主義で。
もちろん、フィクションなんだからご都合主義でも一向に構わないのだれど、そのことを忘れさせるくらいの文学的魅力が伴われていないと興醒めしてしまう。
斎藤カユの造形にしても、『村』で受動的に人生を歩んできたというプロフィールと、そのハードボイルドな言動がまったく親和していない。
疫病騒動に興奮した老婆たちが狂っていく件りの描写などは悪くない。