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2011-12-27 | 海軍人物伝

入谷清宏大尉
大正7年8月3日生まれ 海軍兵学校67期
宇佐、霞ヶ浦、横須賀海軍航空隊附兼教官を経て第502、第755、偵察第102航空隊長
昭和19年7月14日、哨戒任務のためペリリュウ基地発進のまま消息不明
敵機と交戦 戦死と認定 戦死後昇進、海軍少佐



兵学校67期の肥田真幸大尉のいうところの「悪童三羽ガラス」、
入谷、肥田そして渡辺一彦少尉は、延長教育終了後、級友が戦地に行って戦っているのに、
霞ヶ浦の飛行学生教官に残され大いにくさっていました。


この三人が土浦の街を夜な夜な暴れまわるその過程で、貴公子の容貌を持つこの
入谷少尉を偽殿下に仕立てあげ、二人はお供としてかしずいていたのですが
「この宮様がお供以上にキタナくて」(肥田大尉談)きっとレスにはばれていたに違いない、
という話を「搭乗員のユーモア」の日にしました。


入谷大尉の写真は、クラス写真以外ではこの写真しか手に入らなかったのですが、
横向きではっきり見えるその鼻筋の通ったシルエットは
「土浦の貴公子」←エリス中尉命名
の名に相応しい気品を湛えています。

しかし、この貴公子は酔うと少し品を落としたものの、
穏やかでさっぱりしていて人付き合いのいいユーモアあふれる好青年でありました。


友人と一緒に満員の横須賀線の満員電車に乗った入谷大尉、乗客に向かって
「みなさん、出っ張ったところとへこんだところを突き合わせ融通して、
ずーっと奥へ詰めてください!」

電車中が大笑いになったそうです。



この入谷大尉は当時の飛行学生がほとんどそうであったように熱烈な戦闘機志望でした。
母上に向かって自分の宙返りを天覧に供したいものだと冗談に言うほど自信もあり、
また台南空の笹井醇一中尉とは飛行学生時代はよきライバルを自任し、
操縦ではよく張り合ってお互い負けまいと努力しあった仲でもありました。

しかし、入谷少尉は艦攻専修、笹井少尉はご存知のように戦闘機専修を命じられます。
ガッカリして落ち込んでいた少尉を親身になって慰めたのがその笹井少尉でした。
「涙が出るほどうれしかった」と入谷少尉は語っています。


台南空に赴任した笹井中尉が一足先に戦地に出ることになりました。
十二連空卒業試験前夜、「なるみ」で飲みかわしたのが二人の最後の邂逅になります。

「俺は往く。
しかし、艦隊決戦の最後のとどめを刺すのは貴様の雷撃だ。
悲観するな、焦らずしっかりやれ」



こう言いのこし戦地に赴いた笹井中尉の活躍ぶりは、次々と戦地から入谷中尉の耳に
報ぜられて入ってきていました。
その華々しいしい戦いぶりを、羨ましく思いながらも武運長久を祈っていた入谷中尉でしたが、
ついに昭和十七年八月二十六日、笹井中尉が戦死したという悲報に接します。

「彼の武人としての短くも花々しい人生が、もっとも彼に相応しいように思われるのが
一層悲しく感ぜられる」


戦死の報を受けて笹井中尉に寄せる回顧録に、入谷中尉はこのように記しました。

その入谷大尉は家族に向かっては
「自分は最後の切り札だから、自分が出るようになれば戦争は終わりだ」
と相変わらず冗談のように言っていたのですが、
南方の戦地で厳しい戦いを余儀なくされていたようです。

映画「雷電隊出動」にも描かれていたように、戦地では飛行機が不足していました。
この映画の「川上」のように、入谷中尉も飛行機を取りに日本に帰って来たことがありましたが、
その姿は家族の目にも「あわれに痩せはてて」いたそうです。

整備する人も無く、一カ月かけてやっと数だけ揃った埃だらけの飛行機を揃えて再び、
「全滅すること三回」という最前線(ペリリュー島)へと戻って行きました。

これが入谷大尉の最後の帰国になりました。


「途中で振り返ると、着いてくるはずの僚機が一つ、二つと消えているのを知ったときは
隊長としてたまらない気持ちだ」

「作戦上の指令とあらば、
探知機ですぐやられると決まっている方へも飛ばなければならない」


こんなことを家族に語っていったそうです。


入谷少尉には陸軍に行った兄がおり、幼いころから二人とも秀でた優秀さを噂されていました。
彼らの祖母などは、いつも学校では成績人格ともに教師から絶賛されるこの兄弟が自慢で、
「いつもほくほくしていた」ということです。
入谷少尉と前後してこの兄も戦死しています。



笹井中尉死後、一足、ほんの一足早く散った級友に向けて、
入谷大尉の遺した追悼文の一部をそのまま最後に掲載しましょう。


彼はついに「ソロモン」の花と散ってしまった。
彼の戦死の報に接し、無限の感慨の中に燃え出ずるものは唯、雪怨の炎であり、勃々たる戦意であった。

今こそ我等の出撃すべき秋である。
六十七期搭乗員の残党は未だ未だ健在である。
今は亡き戦友の屍を乗り越え乗り越え突進し、
必ずや仇敵米英に最後の止めを刺し尽くさねばならぬ。


「しゃも」よ。
何処かで待っていてくれ、共に勝利の美酒に酔わん日まで。