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「真珠湾からの帰還」 NHKの捏造を糾弾する

2011-12-12 | 海軍

12月10日土曜日、夜NHKで真珠湾を攻撃し捕虜になった酒巻少尉を主人公としたドラマ
「真珠湾からの帰還 軍神と捕虜第一号」を観た方はおられるでしょうか。

開戦の日に合わせて放映されたと思しきこのドラマを、予告編の段階からかなり注目していたわたしは、
その日その時間、家にテレビが無いため、わざわざ車に乗り込んで、
5センチ×7センチの豆粒のような画面で鑑賞しました。
(ここは笑いどころではないので念のため)
その感想。

「捏造するのも大概にしていただきたい」

予告編だけ観るとドキュメンタリー調の造りで、
淡々と資料と映像の間にドラマ仕立ての説明を挟む形式のものかと思いきや、
これが全くの感動ドラマ仕立て。

いやな予感がしたものの我慢して車に座って観続けました。
これは・・・・いかんよNHK。
以下製作者への苦言を呈したいと思います。


まずあなた方に問いたい。
あなた方、作者はもちろんのこと、スタッフ全員、巻和男著「捕虜第一号」を読みましたか?
読まずにやっているのならその資料を読みもしないナメた態度に畏れいるし、
読んだ上でやっているのなら、全く悪質というしかありません。
そして、わたしの想像は「確信犯的捏造創作」です。違いますか?

以下順に列挙していきます。

まず、ドラマの骨子となっている
「捕虜第一号となった酒巻少尉の収容所での扱い」について。

ドラマでは、浜辺の砂も落とさない半裸の酒巻少尉を、そのまま厳しく尋問し、
お情けのようにコーヒーを勧めている。
まるで拷問でも行われたかのような雰囲気です。

実際の捕虜第一号による酒巻少尉の追想は、こうです。

「君たちの手柄は立派です。昨日、アリゾナをはじめアメリカの戦艦が三隻も沈みましたよ」
全く恬淡としている。
真珠湾戦が異国の地で行われた何でもなかつたことのやうに平然としている。
(中略)わたしは軽く冷やかされているような気がした。

事務員らしい金髪の娘がコーヒーを置いて立ち去った。
「さあ、ゆっくり飲みませう」
スプーンでかき混ぜながら、彼はわたしにコーヒーを勧めた。

食事が終わると黒人のボーイがパンや果物の残りを片付けてくれる。
そしてテーブルの上にはミルクとコーヒーが置かれる。
ベッドもそのボーイが用意してくれた。


酒巻少尉はこのとき一気に飲み干したコーヒーの
「喉から導き出された甘い夢のような喜悦の感覚」と「捕虜になったことに対する悲痛な罪の意識」
を同時に感じます。

そして、もっとも許しがたい創作が、
「独房にいる酒巻少尉を私怨から半殺しにするアメリカ兵」
「極東裁判でその非道を証言するも記録からそれは抹殺されたとする」




以下、「捕虜第一号」(勿論本の方)からです。

酒巻少尉はハワイで拘束されて直後、独房の鉄格子をゆすってわめいていました。
「Kill me!」
そのとき、外がざわめき、その中に「サカマキ」という言葉が酒巻少尉の耳に聞こえます。
そして銃声が数発。
やがて騒ぎが収まると監視役のMPがやってきました。
「奴らがおまえを渡せって言うんだ。俺だっておまえをぶっ殺したいよ。
だけど任務とあっちゃしょうがない。
俺は命を張ってでもおまえを護る」


命を張ってでもおまえを護る。
この一言で酒巻少尉は不思議なほど冷静になり、沈思する機会を得た、と自覚するのです。
そして
「虜囚の身ではあっても敵国人にさすがは日本人と言わせるのが
俺に残された唯一つのデューティだ」
という諦念に至りました。

お分かりでしょうか。
一事が万事この調子。
「アメリカ側が不当な虐待をし、それに帝国軍人の矜持を持ちつつ立ち向かい、
さらに皆の上に立って処罰まで受け反逆した坂巻少尉」というストーリー展開には
全く噴飯ものと言うほかありません。
これ、アメリカ軍関係者が見たらさぞ立腹すると思いますが、いかがですか?

噴飯を通りこして失笑ものであったのが
「中宗中佐がどこかに送られるのを身を呈して文句を言う酒巻少尉」
「敵軍のために働きたくないと労働を拒否し、罰せられる酒巻少尉」
「独房に閉じ込められている酒巻少尉を救うためにみんなが『艦隊勤務』を唄い、
それを聴く酒巻少尉は嗚咽にむせぶ」

・・・・・あ   の    な    あ    っ ! !

あまり腹筋崩壊させんでくれんかねNHK?
不肖わたくし、テレビを持っていないゆえ、料金を今まで払ったことはないが、それでも、
「カーネーション」が面白いうちは、放映中だけは払ってやってもいい、くらいの歩み寄りは
見せていたのよ?(←誰に?)

でも、もう堪忍袋の緒が切れた。ぜーったい視聴料は払いません。
こんな荒唐無稽な○○ドラマを作る人たちに払うお金は一円だってありませんとも。
(ついでに、反日ソング「独島は我が領土」を持ち歌ににしている捏造韓流歌手を
紅白に呼ぶギャラなど、こっから先も出す気はありませんからよろしく)

まず中宗中佐の件。
「キャンプ内の美化に大きな変化が起きた。
バラックの周囲に白い小石が並び、芝生が植えられ、花が咲いた。
ベッドが整頓され、床が綺麗に拭はれた。
グロテスクなアーマティロ(アルマジロ)と我々の飼い犬を喧嘩させたりして
面白い小康の日々が」
続いている頃(笑)のことです。
中佐以下16名に別のキャンプに移動せよとの命令が下りました。
そのことをもって下士官兵が「処刑になるのだ」などと妄想をたくましくするのを、酒巻少尉は

「中宗中佐は命令に反対して死ねと怒号する下士官兵に取り巻かれ、激しく悩んだ。
わたしは馬鹿らしい彼らの妄想を寧ろ哀れにさへ感じた」

・・・・・・・馬鹿らしい、って言われてますよ、酒巻少尉からも。


そして次に
「敵軍のために労働することを拒否する捕虜、それを代表者として米軍と折衝する酒巻少尉」
あの、キャンプ何年目にもなって、いまさら初めての労働じゃあるまいし、
この人たちは今頃何に対して抵抗しているのでしょうか。

事実は、
「ゴミの処理を下等な仕事だと文句を言った捕虜たちがストライキをおこし、
司令官に命令の撤回を酒巻少尉が頼みに行くと、司令は口を歪め眉を曇らし、
『ではエンスン(少尉)、それでは一体私はどうすれば良いのか』
と聞き返した」
という次第でした。
この後命令がどうなったのか、記述は実に曖昧にされています。
酒巻少尉とは周知の仲であるこの司令は「ことのほか日本人捕虜たちを愛していた」
そうです。

捕虜生活は、彼らの勤勉によって清潔で秩序が保たれ、作業以外はソフトボール、卓球、
クリケットなどのあらゆるスポーツ、趣味のチェス教室やダイヤモンドゲームが行われ、
夜は酒巻少尉が中心となって「夜学」の授業が行われました。
英語や一般教養などです。
そして「いかにして捕虜を明るく幸福な生活に導くかを、いつも研究していた」
収容所司令官の計らいもあって、映画の上演や、小動物を飼うことを推奨されるなど、
米軍からは精神的なケアも怠りなくされていた、と言うではありませんか。


何とかして捕虜生活が苛酷であったように刷り込みたいNHKの意図は一体何なんですか?
彼らは戦争に参加したからこそ捕虜になってもここまで過酷な目にあったのだと、
米軍の捕虜虐待を捏造してまで訴える、その真意はどこにあるのですか?

勿論、捕虜になったことそのものが帝国軍人である彼らにとって、名伏しがたい恥辱と、
生への欲望のはざまにその身を翻弄されるかの如き試練であったでしょう。
しかるべくして、彼らの間にはニヒリズムや厭世感から捕虜同士のいさかいや対立が生まれ、
決して平穏無事な虜囚生活ではなかったことが、酒巻少尉の筆によって遺されています。

しかし、NHKがでっちあげるような米軍へのレジスタンスというのは、せいぜい
「下士官が中宗中佐の件でいきり立ったので、周りを米兵が取り囲んだ」
という程度のこと。

(もしかしたら、酒巻氏の死後、NHKだけが掴んだ特ダネだったんでしょうか?)

そして極めつけが「独房に収監された酒巻少尉を救うためみんなで歌を歌う捕虜たち」
で、その曲が・・・・・「艦隊勤務」

・・・・・・・・・・・・・・「かんたいきんむ」。

あのー、ここは収容所です。
海軍さんだけが収監されているのではありません。
それでなくても、捕虜間のあらゆる対立でも最も多かったのが
「陸海軍の対立」
海軍がたまたま指揮系統の上に立っているのを陸軍兵はかなり不満に思っていて、
陸海兵同士の殴り合いが絶えなかったのですよ?
みんなで心を合わせて海軍の歌なんぞ歌いますか?
陸軍さんならこういう場面では「歩兵の本領」なんかを唄いたいと思うんですよね。
ここはちょっと辛気臭いけど「海ゆかば」くらいにしといた方が良かったんでは?

「うみーのおっとこっのかーんたいきんむーげっつげっつかーすいもーくきーんきーん」

で、まさにおなかが痛くなるくらい笑ったエリス中尉ですが、次第に不愉快になってきました。
 

このシーン、覚えてます?
旅館のお嬢が屋根の上から手を振って、岩佐大尉(男前)が、はっと目を停めると。
岩佐大尉は彼女を愛していたんですねー。本当ですかー?

戦後、酒巻少尉と再会した女性はいけしゃーしゃーと
「岩佐大尉は『世が世なら』っておっしゃったんですー」なんて言うわけです。
けっ。
岩佐大尉は作戦前に故郷での婚約をわざわざ破棄しています。
そんな思わせぶりを旅館の娘にするわけないじゃないですか。
もしそんなことを聴いたとしても、それは、お嬢さん、あんたの勘違いだ。
っていうか、この創作、実在した旅館の娘、岩宮さんにも失礼じゃないの?

この特潜御一行様、宴会の席でどう聴いても最近のアレンジ、最近の録音にしか聞こえない、
おっしゃれーなニューエイジ風ワルツをかけます。
これも、芸者ワルツくらいにしておいた方が良かったんではないでしょうか。

それはともかく、海軍軍人が旅館の娘に
「私と踊ろうか」とか「いやわたしが」「いや貴様が」「いや拙者が」って、
海軍さんは、こういうとき、ホワイトさん(素人娘)には決して手は出さないのよ!

そして、水戸黄門の印籠開陳より確信を持って予想でき得る、このドラマのエンディング。
「このときのワルツを二人で踊る旅館の娘と生きて帰ってきた酒巻少尉」

もう、勘弁して下さい。
観てるこっちが恥ずかしくなってしまいます。

そして、これらの「捏造」+「創作」+「べたべたなドラマツルギー」は、困ったことに
結果「戦争ドラマ」として、そこそこの、というかかなり感動的なものに仕上がっていました。
主演の青木崇高くん、いいですねー。
いい俳優です。「ちりとてちん」でも注目していました。
この青木崇高くんの好演で、さらに一層いいドラマになってしまって・・・ああ困ったもんだ。


さて。
今朝、我がブログに訪問した人たちのうち多くが、
「酒巻少尉」で検索した結果
「同行二人~特殊潜航艇の二人」そして「軍神の床屋さん」という、
特潜をテーマにした稿に辿りついたようです。
それだけ、このドラマを観て「酒巻少尉」に興味を持った人が多かったということなのでしょう。


しかし、NHKさん。
あなたがたは、もし「捕虜第一号」であった酒巻和男氏がいまだ存命中であったら、
この題材を、このように創作しましたか?

酒巻少尉は、出撃の前日、同期の広尾彰少尉と、呉の街をそぞろ歩いたそうです。
「捕虜第一号」にはそのときのことがこう書かれています。

「僕らは純潔を守らう。」
広尾はさう言ってレスの前を横切った。
「人生二十余年、到頭好きになる女がゐなかったなあ」
「今更女々しくなりたくないさ。男の本望だ。潔く死んで行かうぢゃないか」

二人は、そしてそれから最後の出撃に身につける香水を買いました。

その話を酒巻氏から直接聞いた脚本家の須崎勝彌氏が著書、
真珠湾再考「二階級特進の周辺」の最後に書いていることを、
あなた方に遺憾の意と共にお送りします。

氏の顔からそれまで湛えられていた笑みが消えた。
目がうるんだ。
わたしに何やらズキンと衝撃が伝わった。
この人を主役にして、コマーシャルベースの映画をつくるのは、不遜である。
私は「捕虜第一号」の映画化をみずから破棄した。


「連合艦隊」ほか、幾多の戦争映画の脚本を手掛け、
かつ酒巻和男本人を知りその素顔にふれた須崎氏にしてこの見識です。

あなた方NHKは、おそらく酒巻氏が観たら絶望と憤怒の淵に立ち尽くすしかないような、
この「不遜な」、甘ったるい、感動的な、安い、いやらしい、しかも全くの捏造ドラマを、
本人不在をいいことにつくったのです。
本人がいたら決して作らなかったであろうドラマを。

違いますか?