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No350『水俣 ―患者さんとその世界―』~一人ひとりの人生の重さ~

海。 小さな小舟が浮かんでいる。 ぽちゃり、ぽちゃり、と船が波に揺れる音が聞こえてくる。 冒頭のロングショットに続き、カメラが船に近づくと、 夫婦が二人、黙々と魚をとっている。 水俣の海。 あまりの音のきれいさに、すっと映画の世界に飲み込まれた。 水俣病による胎児性患者は、小児麻痺とかよりも重症で、 手足が不自由なだけでなく、知能の発達も極めて遅いそうだ。 でも、何年もかけて、ゆっくり訓練してい . . . 本文を読む
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No349『丘を越えて』~昭和初期の切ない恋路~

オリヴェイラ監督作品に心地よく浸った数日間の後、 久しぶりに新作映画を観にいった。 西島秀俊と池脇千鶴と『火火』(高橋伴明監督)が好きな私は、 5月末で切れる平日千円クーポンちらしを握り締め、 出演者以外の作品情報は何も知らぬまま劇場に駆けつけた。 ちょっと変わった映画。 つまらないとは言わない、むしろおもしろい。 文芸春秋社をおこし、文学だけでなく競馬や多方面の趣味に長けた 菊池寛を西田敏行が . . . 本文を読む
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ちょっと休憩(峠の茶屋第4話)~ポルトガル料理~

オリヴェイラ監督特集が終わってしまったので、打上げと題して、映画友達と一緒にポルトガル料理店に、ドーロワインを飲みに行きました。 映画の中でも、何度も登場するワイン。 赤を飲んだのですが、まろやかでやわらかい味でとてもおいしかった。 つんつんすることなく、ふくよかな感じで、これまた癖になりそうな美味。 料理も、蛸のトマトシチューを食べましたが、 香辛料はあまりつかっていないようで、 色も柔らか . . . 本文を読む
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No348『永遠(とわ)の語らい』~そこに映っているものは?音と映像の乖離~

日本での公開当時(2004年)、ラストの唐突さに友達が怒っていたのをみて、 変わった映画なんだなと興味を持った。 しかし、オリヴェイラ監督の作品は一つも観たことがなく、 ポルトガルの巨匠と知りつつも、観に行きそこねた。 今回、覚悟して、スクリーンにのぞんだが、 観てみて、びっくりした。 「わ!これは何だ!」と心の中で叫んでいた。 叫びつつも、不思議な魅惑にあふれいて、 さすがオリヴェイラ監督、と . . . 本文を読む
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No347『わが幼年時代のポルト』~時代を超えた、フィルムの断片のコラージュ~

映画のおもしろさを堪能した。 オリヴェイラ監督が、少年時代を過ごしたポルトの街を 当時の写真や、過去に自分が撮影した映画の断片や、ニュース映像と、 監督の孫に少年時代の監督を演じさせて撮ったフィクションの部分(現代の撮影)とをあわせて仕上げた“空想のドキュメンタリー” 特にユニークなシーンがあった。 白黒の記録映像であろう、時計台ならぬ高い塔に 一人の男が素手でよじのぼっていく。解説なんてない。 . . . 本文を読む
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No346「三里塚 岩山に鉄塔が出来た」~この高さに絶句~

とにかく凄い。 この高さは、半端じゃない。 三里塚の農民たちは、 成田空港の開港に先立つ飛行テストを阻止するため、 鉄塔を建てることになる。 その鉄塔建設のドキュメンタリー。 私は、はじめどれぐらい高いのか、よくわからなかった。 とび職の青年が、ひょいひょいと上がっていくのを撮り続け、 そのままてっぺんに上がって、作業をする場面を撮る。 その時、地上に斜めにつながっているロープの先を映す。 え . . . 本文を読む
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No345’どこまで続くオリヴェイラ

何度でも観れるのは、物語があるとはいえ、 どのシーンも余白いっぱいで、 何度観ても、発見に満ちているから。 何を映すのか、何を画面にとらえるのか、 監督の意図するところはあるはず。 しかし、私にはよくわからないことも多い。 わからないままでも、妙に心地よく、 何度でもその世界に浸りたくなる。 風景を眺めるおもしろさ、 銅像のものいわぬ顔を見つめるおもしろさ。 オリヴェイラ監督はクラシックをつ . . . 本文を読む
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No345『家宝』~オリヴェイラ急行列車に乗せられて~

主人公カミーラが電車に乗っておじさんの家に行く。 ドウロ河に沿った山並み。 カメラは、窓枠いっぱいに、変わってゆく景色をとらえる。 それが何度も繰り返される。 景色が右に流れていけば、往き。 左に流れれば、帰り。 電車に乗っているカミーラの姿はワンカットのみで、 彼女が駅に行ったり、家の門を訪ねるシーンもない。 ただ車窓がうつり、次のシーンでは、 応接間でおじさんと喋っていたり、 都会の俯瞰シーン . . . 本文を読む
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No344『吸血鬼』~怖い怖い映画~

さらさらと降り積もる小麦粉、 ゆっくりと回転する歯車、 小麦粉の中に埋もれていく男。 ここに 船に乗ってもやの中を進んでいく青年と少女の姿が カットバックで交互に映し出される。 かたや、こわーいシーンと 幻想的な美しいシーン。 なんとも恐怖感が増した。 1930-31年、監督はカール・テオドア・ドライヤー。 白黒映画。 影の使い方がすごい。 最初に青年が泊まる宿の看板からして、 なんだか不気味な . . . 本文を読む
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No343『クレーヴの奥方』~驚きと発見の連続~

キアラ・マストロヤンニがひたすら美しい。 修道院の回廊で親友の修道女と話しながら歩いていく姿、 墓地での喪服の美しさ、 公園の柵の向こうを小走りに逃げていく姿、 緑の中に置かれた彼女の姿は、 彫像とおなじぐらいに美しく、うっとり。 夫婦が真剣な会話をしている時に、いきなり物乞いが現われる驚き。 キアラを慕う黒サングラスのロック歌手に、キアラが追いかけられ、 家の2階に駆け込み、そっと窓から外を見 . . . 本文を読む
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No342『家路』~驚きと発見の連続~

マノエル・ド・オリヴェイラ監督特集がプラネットで始まった。 『家路』は以前から観たかった作品。 やっぱりミシェル・ピコリは楽しい。 パリのカフェでの席のとりあい、 おしゃべりの間ずっとピコリの靴だけをうつしたり、 パリの街角をスケッチするかのようなシーンが楽しい。 2階の暗い部屋で、カーテンを少しだけ開けて 窓から孫が学校へ見送るのをそっと見送るピコリ。 子供のかわいさは何処も同じ。 逆光でピコ . . . 本文を読む
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No341『さよなら。いつかわかること』~悲しみを言葉にできるまで~

不器用ながらも妻や子供たちを心から愛している父親スタンレーを演じた ジョン・キューザック。 少し中年太りして、臆病げにもみえるやさしいまなざし、 おだやかな表情は、どこにでもいそうな優しいお父さん。 その父親ぶりがすばらしい。 12歳の長女ハイディとの微妙な距離感。 ある日突然、兵士として戦地に赴いていた妻の訃報が届く。 娘たちにそのことを告げられず、 食事に行こうと言ったその帰り、 フロリダの . . . 本文を読む
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峠の茶屋第3話 文楽~義太夫を弁士に、無声映画のような~

親子、夫婦という「人情」と 主君への「忠義」の狭間で 苦しみながら「忠義」を選びとる武士やその妻の姿が、 文楽では、繰り返し描かれる。 忠義のために自害する息子や娘を「天晴れ」とほめたたえる父。 初めて観た時は、なんと残酷なと驚いた。 腹の底に尽きせぬ涙をこらえていたとしても、ひどすぎる。 子供の首を斬って、さしだしたり、かなり残酷。 その親も、ほどなく子供の後を追って自害するのだが。 今回観 . . . 本文を読む
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