巨大な城塞のような宮殿の中。
宇宙船の形をしたエレベータが、1本の棒を支柱に、すぅーっと上がっていく。
その動きと音を聞いて、「これはコナンだ」と思った。
その瞬間、こころの扉が開いた。
構図のうまさ、どきどきする語り口、個性的な人物造形、動きのおもしろさに
何度も感服し、すっかり映画の世界に入り込んだ。 . . . 本文を読む
路地の奥、ぼんやりと外灯が灯り、
暗闇の中を女が一人、ふらりふらりと歩いていく。
路地の両側には、古い家が続き、
そのうち一軒の扉が、風のせいか、開いたり閉ったりを繰り返している。
女のうしろ姿はロングショットで小さく、画面も暗い。
でも、我々観客は、女の胸中を知っている。
4年以上もの間、夫婦のようにともに過ごしてきたが、
男の将来を考え、つい先ほど、ひっそりと身を引いて、
男に気づかれぬうちに、今生の別れをしてきた。
その辛さ、悲しみが、わずか数秒のこの画面からあふれだす。
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あまりのリアルさに、凍りついてしまった。
9.11の日、ペンシルベニア州に墜落した4機目の飛行機。
起きてしまった悲劇、犯人により起こされた事件、二度とみたくない惨劇を、
淡々と、事実そのままに観客の目に差し出そうとする
ポール・グリーングラス監督の姿勢に深く感銘を受けた。
ハイジャック犯の悪をことさら強調することなく、
乗客、乗員の誰かを主人公にするわけでもなく、
リアルに現場の状況を記録していこうとするカメラと演出。 . . . 本文を読む
「元禄忠臣蔵」の写真を探していて、偶然、東京で
「没後50年溝口健二国際シンポジウム」があると知った。
パネリストの中に、ビクトル・エリセの名前がある!
「ミツバチのささやき」「エル・スール」の監督。
柳町光男監督(「カミュなんて知らない」)、山崎貴監督(「ALWAYS 三丁目の夕日」)、
井口奈巳監督(犬猫)のほか、
司会は、山根貞男さん、蓮實重彦さん、
香川京子さんと若尾文子さんのトークと、なんと豪華な面々だろう。 . . . 本文を読む
グロテスクな怪物、魔物たちのオンパレードに気持ち悪いと思いつつも、少し懐かしい気もした。そういえば、子どもの頃に見た仮面ライダーの世界に似ていることに気がついて、合点がいった。ライダーの敵ショッカーにも、奇妙な形の怪物がやたらと登場し、喜んで見ていた気がする。この映画も、そもそも怪物好きの冒険ものなのだ。のたうちまわる大タコの迫力、リアルさや、幽霊船の気味の悪さ。
我らが主人公、ジョニー・デップ演じるジャック・スパロウは・・といえば、ずるがしこいところもあれば、とぼけたところもあって、目が離せない。 . . . 本文を読む
きっと、知られざる歴史を明らかにする、というだけでは
こんなに反響を呼ぶことはなかったと思う。
主人公の中国残留兵の奥村さんの熱意、気迫が、とにかくすごいのだ。
圧倒された。
どうしてここまで自分を追い込むことができるのだろう。
80歳の老人を支えるのは、
戦争を繰り返してはならない、という強い信念であり、
自分たちを裏切った上官への怒りであり、
中国で死んでいった戦友への悼みであり、
戦争がどんなに人間を残忍にし、人間性を踏みにじるものか、を明らかにしたいという強い思いである。 . . . 本文を読む
ファーストシーン。小豆島の田んぼのあぜ道を歌を歌いながら子ども達が学校に歩いていくのをロングショットでとらえる。ラストシーンで、同じ田んぼ道を18年後、戦争の苦しみに耐え、幾つもの悲しみに耐え、もう一度教壇に立つ大石先生(高峰秀子)が、霧雨の降る中、雨合羽を着て、教え子たちにプレゼントされた自転車で学校へと向かう。
そのロングショットに、
18年の月日の重み、大石先生や12人の子ども達の人生の重みがにじみでる。
つらいことばかりでも、たくましく前を向いて生きていく大石先生の姿には
希望を感じた。 . . . 本文を読む
溝口健二はすごい。
ワンシーン、ワンカットとはきいていたが、
こんなに力を持っているとは思わなかった。
討ち入りした赤穂浪士たちの
本懐を遂げた喜びも悲しみも、深く伝わってきて、圧倒された。
特に「後篇」は文句なしの傑作。
討ち入りのシーンはあっさり省略。
その省略の仕方もみごと。 . . . 本文を読む
いうまでもない、日本映画屈指の名作。
映画が始まり、短調のメロディが流れると、ほろりと胸が熱くなる。
何度観ても、そのたびに新たな発見があって、味わい深い。
笠智衆と東山千栄子演じる老夫婦の物語でもあり、
この夫婦と東京で働く子どもたちの、親子の物語でもあり、
末娘の香川恭子曰くの「大人になるって、いやあね」の「大人」についての物語でもあり、
幸せについての物語でもある。
一つ一つのエピソードが身近で、共感でき、情感にあふれている。
「日本の悲劇」(木下恵介監督)と同じ1953年の作品で . . . 本文を読む
1953年、木下恵介脚本・監督。
題名が題名なので、大仰にみえるが、
戦後の貧しい時代を生きる母と子の確執の物語。
望月優子が演じる母は、とても庶民的な存在。
せかせかしていて、なんだかみっともなくて、
ときにみじめくさくて、とても自慢したい、という感じではない。
でも、一番、子どものことを大切に思っていて、
子どもの将来だけが楽しみで、
熱海の旅館で、女中として働きながら、
東京の娘や息子に学資を送っている。
普通のどこにでもいる母の「まごころ」を感じた。
戦争未亡人となり、戦後、闇屋までして、女手一つで育ててきた母の愛も、
子ども達にとっては、いつのまにかおしつけがましいものとなり、
疎ましがられる存在になっていく。 . . . 本文を読む
井上靖の小説「通夜の客」の映画化。1960年五所平之助監督。
敗戦から4年後、元新聞記者の新津(佐分利信)の通夜に
美しい女性キヨが現われる。
彼女(有馬稲子)は、新津が中国地方の山にこもって執筆活動をしていた3年間、
ずっと生活を共にしていた愛人だった。
物語は、二人の出会いから、キヨの回想として始まる。
私の好きな佐分利信が、少しいやらしい感じの中年男を演じている。
二人の感情が高まるシーンで、音楽が大げさなのが気になったが、(音楽は芥川也寸志)
中年男と若い愛人の娘との「純愛」を描いた、いかにもメロドラマという感じ。 . . . 本文を読む
吉永小百合、山口百恵らの主演で、何度も映画化されてきた
川端文学「伊豆の踊り子」の映画化の第1作目。
昭和8年(1933年)、サイレント。
踊子の薫を演じるのは田中絹代。学生水原を大日向伝。 . . . 本文を読む
「勇さん、ねえ、見て。あれ。なんだかわかる?」桃井かおりの驚き、うわずった声が耳から離れない。テレビで放映されているのを何度か観たことはあるが、映画館できちんと観るのは初めて。クライマックスの演出がすばらしい。 . . . 本文を読む
深海潜水艇パイロットの小野寺(草薙剛)、結城(及川光博)、
ハイパーレスキュー隊員の玲子(柴咲コウ)、
それぞれが自分にできる精一杯のことをする姿が心に残る。
自然で、静かで、謙虚な覚悟。
その潔さを支えるのは、家族への愛、恋人への愛・・。
函館や福岡、日本のあちこちの都市が水没したり、津波に襲われていく映像がリアル。
実際にこんなことが起きたら、どこまで自分は腹をくくれるのかと
考えずにはいられなかった . . . 本文を読む
清水監督の作品は、どれも素朴てユーモアがあり、
さびしさと喜びとがどこか切なく、いつまでも映画の世界に浸っていたいと思う。
本作は、昭和16年(1941年)、清水宏監督38歳の作品。
監督が24歳のときに2年間、同棲していた田中絹代が主人公。
ラストシーン、掲載の写真のとおり、日傘をもって歩く姿は
うっとりを超えて、驚くばかりの美しさ、艶かしさだ。
温泉宿を舞台に、宿泊客たちの何気ない姿を綴る。
ユーモラスさと、人情の機微にあふれている。 . . . 本文を読む