ずいぶん前に初めて観て大興奮に包まれた。この映画について、今まで書いてなかったとは意外。でも、きっとあまりに楽しすぎて、心がざわめいて、友達とビールを飲みながら語って大満足して終わっていたのだろう。ジョン・フォード監督の1952年の作品。
とにかく楽しいの一言。脇役のどの顔も魅力的で、味があって見ごたえがある。アイルランドの片田舎の小さな村、イニスフリーに住むことができたら、さぞや人生は楽しく豊 . . . 本文を読む
けしの真っ赤な花が色鮮やかに咲き乱れる草原で、白馬が苦しそうに倒れるところから、映画は始まる。思えば、これが、この映画の予言的な幕開けだったのだろうか。グルジア映画特集の1本で、テンギス・アブラーゼ監督のグルジア史三部作の第二作(1977年)。とにかく映像が美しい。霧のシーン、雪のシーン、小雨のシーンとぼんやりと映し出される景色のなんと美しいことか。ロシア革命前の、グルジア東部の小さな村が舞台。妻 . . . 本文を読む
じいさんが会う人誰もが、頑固なじいさんの一途なまでの情にほだされ、一つひとつ、じいさんの進むべき扉が開いていく。日曜に観た『ルカじいさんと苗木』と同じレゾ・チヘイーゼ監督の1964年の映画が神戸映画資料館でやっていて、日曜は、寝坊で見逃したから(新長田とはいえ、1時半開始なので、相当の寝坊ですが)今日、もう一度、神戸映画資料館に行ってきた。
全く違う映画だけれど、でも、どこか根底にあるものは似て . . . 本文を読む
庭の大切な梨の木が、冬の寒さで枯れてしまう。同じ梨の木の苗を探しに、ルカじいさんと孫のカハが旅に出るお話。苗木を探し求める旅でありながら、ルカじいさんは、せっかく苦労して手に入れた苗木を、いろんなことが起こるたびに、迷うことなく、投げ出していく(差し出していく)。苗木自体が、死にかけている時には、その土地に苗木を与え、苗木よりも尊いというものがあれば、差し出す。苗木を手に入れて持ち帰ることに執着し . . . 本文を読む
三船敏郎が演じるのは、豪快で、竹を割ったような、さっぱりした人物ばかりだと思っていた。
本作は1955年の黒澤明監督作品。当時35歳の三船敏郎が70歳の老人を演じたことが話題となったとあり、きっと、回想シーンだけで、若い頃の話だろうと、勝手に予想していたら、まるで違った。
最初から最後まで、ずっと老人を演じていた。眼鏡をかけ、神経質に扇子でばたばた、あおいでいる。落ち着かず、全然かっこよくない . . . 本文を読む
変な映画。だけど、どこか忘れられない。写真のとおり、シュールなかぶりものをかぶったまま、絶対素顔をみせず、バンドのボーカルとリーダーをやっている男、フランクの物語。被り物をしないと、人前に立てないどころか、人にも会えず、自分の音楽もできないフランクの深い哀しみが、映画の根底にある。演奏している姿が、楽しく、明るく、ぶっとんでいるほど、フランクが内側に抱えている苦しみの深さが思われ、そのギャップが、 . . . 本文を読む
黒澤監督の映画は、なんとなく、すっきり明快に終わるイメージがあったけれど、本作は、全然違った。三船敏郎が画家の青江を、山口淑子が人気の声楽家西条を演じる。声楽家といっても、1950年の作品だから、人気歌手という感じだろうか。二人は偶然、山でいっしょになり、青江が好意で、西条を宿までバイクに乗せていく。旅館が同じで、湯上りの姿で、2階の窓から並んで涼んでいたところを週刊誌の記者に写真をとられ、スキャ . . . 本文を読む
「いのち短し 恋せよ乙女」とゴンドラの唄をブランコに座って歌っている志村喬を、ジャングルジム越しにとらえたショットの美しいこと。焼香に来た警察官が夜の11時ころ、雪の降る公園ではじめは酔っ払いと思ったが、楽しそうに、心の奥深くまでしみいるような声で歌っていたので、そのまま通り過ぎた。あの時、声をかけてお連れすれば、亡くならなかったのにとわびる。
下水で水たまりができる場所に公園をつくるのに奔走す . . . 本文を読む
「うつむいてちゃだめですよ。ちゃんと前を向いて、胸を張ってなきゃ。私もいつも、そう先生に言われてるんです」「そうね…。あなた、先生を好きなのね」
と入院患者の中田の妻(中北千枝子)から言われて、看護婦の峯岸(千石規子)は、照れてベランダに出る。そこには、包帯がいっぱい干してあって、一斉に風になびいている中、峯岸は、大声で、階下に向かって、後輩の看護師の名前を呼ぶ…。
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「デビュー作『あばずれ』の時から比べて、失ったものは何ですか?、失っていないものは何ですか?」本作ドキュメンタリー映画で、インタビュアーの女性が渡辺護監督に尋ねたこの質問が、とても心に残っている。
50年以上前に初めて監督として映画をつくった時の自分と今とで、「どこが変わりましたか?」という聞き方ではなく、あえて、「失ったもの」という聞き方は、ぐさりと、懐に食い込むような質問で、さすがの渡辺監督 . . . 本文を読む
11月8日『糸の切れた凧 渡辺護が語る渡辺護』を監督した井川耕一郎監督が、大阪七芸に来場。太田耕耘キ(ぴんくりんく編集部)さんを聴き手にトークが開催された。とてもおもしろいお話で、本作の上映は11月末に神戸映画資料館でも行われるせいか、レイトショーのせいか、お客さんが少なくてさびしかったので、ご紹介したい。まず、本作の撮影のいきさつについて。2009年12月に撮影を始め、2010年から本格的に撮っ . . . 本文を読む
「アイスピックが芝居をするんだよ」渡辺監督のこの言葉にしびれた。。。「間合いなんだよ」アイスピックを使って復讐する場面での演出についての語り。
ピンク映画のクロサワと呼ばれた渡辺護監督。これは、監督が自伝的に語るドキュメンタリー映画。第1部は、幼い頃の両親の話に始まり、兄のこと、大学時代の友人のこと。第2部は、監督デビュー作『あばずれ』(65年)についてがメイン。
監督は、約50年前に撮った『 . . . 本文を読む
結末は哀しいのだけれど、なぜか、観終わって、すがすがしい気持ちになるのは、なぜだろう。
1948年の黒澤明監督作品。舞台は、戦後のバラック街の片隅にある町医者。そこの前には、「みずったまり」と女がはきすてるように言った、きたない沼が広がっている。お人形が捨てられていたり、水中からプクリプクリと泡も浮いて来たり、ごみが捨てられたりもする。
そんな汚い沼だけれど、黒澤監督は、雨が降る水面や、風でで . . . 本文を読む
黒澤明監督作品の中では、58分と短く、アクションもなく、地味な方の作品だと思う。でも、なぜか、観終わった後、静謐な気持ちになり、その余韻がずっと残っていて、心地よい。一篇の、水墨画(白黒映画だからというわけじゃなく)の絵巻物を見ていたような、あるいは、掛け軸の中の絵にふっと入り込んで、映画が終わると同時に、目が覚めたような、そんな感じである。
能の「安宅」と歌舞伎の「勧進帳」で知られる、源義経と . . . 本文を読む
11月1日は映画の日、ということで、久しぶりに、頑張って、雨の中、ひとり映画館のはしごをした。レイトショーで、帰りはかなり遅くなるけれど、100円2割引きのおにぎりを二つ頬張って挑んだのが、テアトル梅田で公開中のフランスのグザビエ・ドラン監督の新作。
映画の冒頭で流れるのが、ミシェル・ルグランの「風のささやき」(The Windmills Of Your Mind)。スティーヴ・マックイーン主演 . . . 本文を読む