「アジョッシ」(ハングルでおじさんという意味)の言葉が、
こんなに悲しく胸に迫る映画があっただろうか。
ちぎれてしまった、寂しく、切ない思いが悲しいメロディにのって、
いつまでも頭の中を駆け巡っている。
狭く薄暗いアパートの廊下で、デスが、
飛びかかってくるチンピラの大群を次々に倒していく迫力といい、
猛烈な勢いで坂を駆け上がっていくスピード感といい、
インパクトのある映像で、
観る者の心を映 . . . 本文を読む
今が旬の若き山下監督。
人気アニメの映画化。
今までの監督の作品にあった
独特の「間」のユニークさ、おもしろさは
ほとんどない。
しかし、映像作家としての新たな一面がうかがわれ、
着実な成長を遂げていると実感。
映画は、後半から俄然おもしろくなりだした。
映画のテーマは兄と妹の間の愛。
兄妹が、まさに「行為」の最中に、両親が突然、旅行から帰宅する。
修羅場が・・と思いきや
画面は、
連続した . . . 本文を読む
日本映画名作鑑賞会「映画に描かれた関西」での上映。
1963年大映。原作山崎豊子。
中村雁治郎、浪速千栄子と
芸達者な役者を得て、
大阪弁の響きの心地よい、船場の老舗の問屋もの。
遺産相続をめぐる
3姉妹、妾、番頭の確執が
人間味豊かに、描かれていて、
すっかり引き込まれてしまう。
大番頭の中村雁治郎がいい。
善人なのか、悪人なのか、
腹の底が読めない芝居が、実にうまい。
冒頭の方で、
暗闇 . . . 本文を読む
女性の人形の
ささいな仕草に
うっとりするような色気が漂う。
ほんのちょっと首をかしげたり、
上体をかがめる、
それだけの動作なのに
なんと色っぽいことか。
なぜだろう。
人形の顔は、
少ししもぶくれで、超美人でもない。
しかし、3人の人形遣いの手にかかり、
大夫の語りと三味線の鳴りが始まると途端に、
哀愁漂う絶世の美女になっている。
人形たちの思いが会場いっぱいに充満する。
人形は動かされて . . . 本文を読む
1997年の作品。
凍てつく嵐、アイス・ストームの怖いこと。
少年が、アイスストームの過ぎ去った
静寂の雪に包まれた世界を
ひとり、楽しそうに歩き回る。
切れた電線が
やおら「ばちばち」と鳴って、
うなりながら、蛇のようにしない
ガードレールにあたる。
「じりじりじり」と電気が伝わる。
そして・・・
ショッキングな思いもよらない展開で
驚いた。
アメリカの郊外、隣り合う二つの家族の物語。
夫婦 . . . 本文を読む
「イタリア映画祭傑作選」のプログラムの1本。
生まれ育った国を出て、西へ流れ
異国の地の工場で働く作家志望の主人公トビアシュ。
小さな頃に別れた親友リースを
自分の将来の恋人と強く信じている。
工場で働く者の中に
偶然、一児の母となっているリースを発見。
トビアシュは、ストーカーと呼びたいくらい、
執拗に、こっそり、リースを追いかける。
あまりの一途さに
気持ち悪いと思いながらも、なぜか目が離 . . . 本文を読む
これが、
「金俊平」という
ひとりの男の人生なんか。
エンディングロールが流れてきて
映画の重みがずしりとのしかかってきた。
金俊平を演じるビートたけしのオーラの凄いこと。
画面にぬっと立っただけで、
全身から、怖さがにじみ出ている。
一体、彼の凶暴さは、どこから来るのか。
あたりかまわず暴力をふるっていた彼が
葬式で、力あまって倒れこみ、そのまま立てなくなる。
その時の、
呆然とした表情と . . . 本文を読む
東京へ行って
山手線のホームの放送を聞き
電車の揺れに身を任せ
御茶ノ水の高架の電車の風景を眺めてみたい。
この映画に
何かが起こることを期待してはいけない。
一人の女の周りに流れている「日常のある時間」を切り取っただけ。
たゆたうような時の流れ。
それぞれの登場人物が
表には出さないが
何かややこしいことを抱えていることは
なんとなく感じる。
しかし、とりたてて何も起こらない。
平凡そうに . . . 本文を読む
役所広司と稲垣吾郎、
二人の役者の全身全霊の演技で、
見事な密室劇が生まれた。
場所や、時間の経過を「タイトル」で伝えたり、
規則的に挿入される劇場前のどんちゃん風景など
安易なつくりかたに感じられ、はじめ、戸惑ったが、
いつのまにやら、
二人の掛け合いの世界に笑ったり、はらはらしたり。
役所広司演じる検閲官が
台本の世界にのめりこんでいくにつれ、
映画の空気もどんどん濃密になって
観客をひき . . . 本文を読む
「春」の少年の、愛らしい表情と幼いゆえの残酷な行い。無邪気な泣き声。
「夏」の青年の、青春のエネルギーのはじけるような高まり、
思い込んだらまっすぐの、おさえきれない性のエネルギー。別れの号泣の涙。
「秋」の30代の男性の、嫉妬で荒れ狂う心と、やがて得られる平安。
「冬」の壮年の男性の、たくましさ。芯の強さ。訪れる女の弱さと不気味さ。
誰も言葉少なく、
どんな人間かまるでわからない。
まるで . . . 本文を読む
「くの一忍法」1964年
中島貞夫の監督初作品。あの倉本聰と中島貞夫が脚本。
豊臣の子供を腹に宿した侍女たち(実はくの一)
窮地におちいり、
忍法で、別の女の腹の中に
胎児をあずけ替えるなんて、
奇想天外。
「露枯らし」など、笑ってしまう忍法が次々。
政治のために
武士の男たちに利用されてきた女が
反旗をひるがえす。
豊臣に嫁ぎながら、徳川の家に戻らされた千姫の
最後の不敵な笑みが心に残る。 . . . 本文を読む