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No1143『みかへりの塔』~取っ組み合いして、仲直りして、野山を駆けまわる少年たち~

大阪府柏原市にある「修徳学院」が舞台。
感化院、教護院を経て、今は児童自立支援施設という。
非行や家庭環境等の理由で生活指導を要する子ども達が入所し、
家庭(親)に代わって、専門員の夫婦と生活を共にする。

子ども達の表情に釘づけになった。
寝小便をして、布団を干したり、
学校でささいなことで取っ組み合いの喧嘩をしたりと、
いろんな子が描かれる群像劇。
皆、無邪気で、はきはきしていて、さびしんぼでかわいい。

実母に死なれ、新しいおっかさんになじめない信一(のぶいち)は
お母さんが来るたびに逃げ出す。
山の池で、友達と石を投げ入れて遊んでいる後ろ姿を
手前に池の水面を入れ込んでのロングショット。
虫が鳴く中で、遠くで学院の鐘が鳴るのが聴こえ、
やおら、少年たちは、何も言わず、
水際を水しぶきをあげて走って戻っていく。
すごくきれいでたまらない名シーン。

私は主演の笠智衆さんが大好きで、
ずいぶん前に観た時は、
説教くさいように思えてか、そんなによかったという印象がなかった。

今回、映画を観ながら、こどもたちがすごくかわいくて
思わず、こどもに関われる仕事に、
今からでもつけないかしらと思ったりした。

私も、こんな年の子供がいてもおかしくない年になり、
小学生の甥っ子がいたりするから、
よけいに、少年たちの表情、口ぶり、やんちゃな姿が
いとおしくて、たまらない。

女の子より男の子がなぜか、かわいい。
「信一のおっかさんが来たぞぉ」とか、
「おーい信一が逃げたぞぉ」と
子供達が大きな声で叫んで、
次々と口伝えしていくのもいい。

学園は、山の中にあるから、何か起こるたびに、
こどもや先生たちが、皆で一斉に坂道を
上ったり、下りたりして、走っていく。
その姿をロングで、パンしながらとらえるショットが
これまたきれい。

学園の近くを関西線が走っていて、貨物列車がとおっていく
ロケーションもいい。

水不足で、水路をひくために、子どもたちが皆総出で頑張る姿は圧巻。
「共立を希って 修徳学院90年誌」によると
昭和8年から9年にかけて、学院の上の方に大きな池をつくり、
平尾山から流れる雨水を受け溜めるため、
職員生徒で、石探し、石運びして、9年6月に完成したそうで、
このことが、映画のモチーフになったらしい。

ラスト、カメラは、線路を超えて、ゆっくりと
ロングショットで、学院のみかへりの塔を映しながら、遠ざかっていく。
ちなみに、このみかへりの塔は、現在もある。

この映画は、柏原の現地と、清水宏監督の馴染みの伊豆とで撮られたそうで
1941年の作品。
もう一回観たいなあ、といいつつ、平日の昼夕の上映しかないので無理ですが、
ほんと、多くの人に観てほしいです。
男の子たちが、本当にかわいいし、はきはきした声が心に残ります。

コメント ( 3 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
男の子 (たまこ)
2014-02-02 09:34:54
イヤな言い方だけど、子どもがいないと分からない、っていう言い方する人いるよね。

私は逆に、子どもがいると分からない、ってこと、いっぱいあるなあっていつも思います。

例えば宮部みゆきの小説の、はかなくも愛らしい少年たちの描写。散る花びらに向けるようなその哀惜の視線は、ごちゃごちゃの日常を生きるため、いい加減に曇った親たちには決して持てない、こよなく透き通ったまなざし。

それがすごくうらやましいのです。

親は散文的な子どもを見すぎているから、子どもの詩が分からないんだと思います。

身近にいろんな子供を見ていて思うのは、

女の子は、賢いところがカワイイ
男の子は、バカなところがカワイイ

ということかな。

ブログに「ナバロンの要塞」のことちょっと書きました。
 
 
 
たまちゃんへ (ぱらぱら)
2014-02-02 23:44:38
「子どもがいると分からない、ってこと、いっぱいあるなあっていつも思います。」
というのは、びっくりの視点です。

私なんて、結婚もせずふらふらしていて、好きで生きてきた人生とはいえ、映画観ながら、こんな可愛い息子を持って、おっかさんなんて言ってもらえることもないんだとか、思ったりしてるど阿呆です。
そういう視点をもてるなんて、さすがたまちゃんです~。

清水宏はほんと、いいですよ~、ぜひ見てほしいです。奈良を舞台にした『大佛様と子供たち』という作品もあります。奈良からなら九条まで直通も出てますし、ぜひぜひ一度足を延ばしてみてください!
本当に子供がかわいくてたまらないです。
 
 
 
生きる (PineWood)
2016-05-03 01:45:42
本編の子どものやんちゃなシーンにジャン・ヴィゴ監督の映画(操行ゼロ)とかトリュフォー監督の(野生の少年)、(トリュフーの思春期)などを連想しました。水平の移動撮影シーンや汽車が横切る水平線、子らが、山村を往き来する深度の深い縦の構図の魅力など数え出したら切りが無い…。みかえりの塔の鐘の音に施設を逃げ出した子どもらが思わず戻ってしまう可愛らしさ!
 
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