日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

マクドナルドを他山の石にできなかった「ペヤング=まるか食品」

2014-12-11 | 経営
カップ焼きそばでおなじみのペヤング・ブランドのまるか食品の製品に、ゴキブリが混入していたと言う問題。どの段階で書こうかと思っていた同社の対応についてですが、昨日同様の問題が発覚した日清食品冷凍スパゲティ回収発表に次いで、本日はまるか食品がカップ焼きそばの全面製造休止を発表という事態に至りました。

この問題、発生当初からまるか食品の対応に疑問を呈する声がたくさん聞かれておりました。それらの声がまるか食品の危機管理対応上の問題点をクローズアップする形になっています。まるか食品の対応の問題点について、ネット上での騒ぎを元に企業の不祥事発生時における危機管理対応の観点から考えてみましょう。

ネット上での騒ぎからうかがい知れるまるか食品の一連の対応に関する問題点は、大きく分けて3つに集約されるようです。

第一の問題は、問題発覚時に間髪入れず、「製造工程上考えられない」というコメントを発表したこと。十分な調査をする前に何の根拠も示すことなく、断定的かつ責任回避的コメントを発してしまったのです。企業の不祥事発生時における初動のコメントにおいて、根拠なく責任逃れとも取れるような発言は絶対に避けなくてはいけません。

素人が考えても、クリーンルームのような環境下で製造がおこなわれているのならばともかく、通常管理の食品工場で事件発覚直後の段階で「考えられない」とする断定は、「言いがかりをつけられた」とでも言っているかにも受け取られかねません。これは、危機管理対応の初動段階で責任転嫁姿勢と受け取られかねないやり方をしてしまったと言えるのです。

第二の問題点は、当初この問題に遭遇した被害者がゴキブリが写ったカップ麺の写真をSNSにアップしていたのを、同社が「お互いのために下げて欲しい」と取り下げさせたことです。この問題は、第一の問題点での責任転嫁発言があったが故に、一層消費者の反感を買うことになったようです。

確かに自社のイメージダウンになる写真をネット上から取り下げて欲しい、という気持ちは分かります。しかし取り下げても取り下げなくともネット上の写真が簡単に複製可能である以上、オリジナルを取り下げたところで一度アップされたショッキングな写真は、他の人により同じようにネット上にアップされることを想像できない方が時代遅れなのです。

さらに、取り下げさせるために「お互いのために」などという言葉を使って、「脅し」とも取れるような態度をとったことは、いたずらに被害者の感情を逆なですることにもなります。このことは余計に問題を大きくし、取り下げの効果など全くなかったに等しいほど、問題写真は広く拡散されることになったのです。

そして第三の問題点は、事故発覚後の保健所の立ち入り検査が「混入可能性は否定できない」という同社の第一声コメントを完全否定する見解を出したことを受けて、当該製品と同じ日に同じラインで製造された製品を限定的に回収すると発表したことです。事故発覚時に「考えられない」としたものがあっさりと、専門機関である保健所の見解として「考えられる」と覆されたにもかかわらず、同社の対応はあまりに限定的であり、これも非難の対象になりました。

消費者の多くはポーズと見るでしょう。ゴキブリが混入するリスクを否定できない製造工程であったなら、混入リスクがその日に限らずあることは子供にでも分かります。「とりあえず世間がうるさいから1日分だけ回収しておけ」「何週間分も何ヶ月分も回収したら大損だ。そんなことできない」。同社はそう取られても仕方のない、中途半端な対応。中途半端さは、イコール消費者の食の安全は二の次、まずは自社の利益優先とのイメージを強く印象付けることにもなってしまったのです。

さらに運が悪いことに自主回収に関しては、同様の虫混入事故を受けて過去1カ月分を回収するとした日清食品の対応がまるか食品との対比という形で、「日清=良」「まるか=悪」というコントラストを強くしてしまったこともあります。日清食品の対応もよくよく考えてみると完璧であったとはおよそ言えないものです。ただ日清食品が上手であったのは、まるか食品の騒ぎを利用して、自社の事故を軽く見せると言う危機管理対応ができた点にあるとは言えそうです(これが果たして道義的にどうか。そこは議論の余地があるかもしれません)。

日清食品の事故は実は11月上旬の発生です。それをここまで伏せてきて、まるか食品の騒ぎを見るや、「ネットでうちの被害者が騒ぐ前に自ら言ってしまえ」とカミングアウトしました。しかも同様の事件でありながら、まるか食品の製造1日分回収を問題と見るや1か月という1日に比べれば破格の期間の製造分を回収すると宣言したのです。1か月と言う期間になんら根拠はありません。ただ、1日分のみ回収というまるかの対応を世間が知っている今なら、1か月は有効な機関になり得ると考えたのではないでしょうか。

日清が出したコメントは「具材のトマトかブロッコリーに混入したとみており、同じ具材を使う生パスタシリーズも回収する。特定の日に発生した事例で、今後、発生する可能性は限りなく低い」というもの。これもよくよく読めば、果たして説得力があるのか否か疑問です。しかし、根拠なく第一声で乱暴に「考えられない」と断言したまるかとの対比を巧みに利用したコメントでもあるともとれます。こうして考えると、日清食品の危機管理対応は、明らかにまるか食品のそれを上回っていたわけで、まさしく1枚上手であったと言えそうです。

このような今回のまるか食品の事故対応を見るに、実は対応のヒントが今夏に起きたマクドナルドの一件にあったということは着目しておく必要があります。マクドナルドの消費期限切れ鶏肉使用の一件が今だに同社に大きなダメージを与え続けているのは、やはり初動のまずさと根本解決がなされていないというイメージの問題があるからです。

マクドナルドの問題は、初動におけるトップの対応の遅れと責任転嫁発言が企業イメージに泥を塗りました。さらに事故改善策の核となるべき食の安全性の問題への対応が、生産拠点を問題が発生した中国からタイにシフトするというもので、印象の問題からすれば中国から日本国内へのシフトではなく、同じアジア諸国へのシフトは決して安心感を与えるものではなかったのです。

マクドナルドの一件は、飲食業界の食の安全性に係る不祥事対応における初動の大切さと対応策における「食安全性を守る>自社の利益を守る」姿勢を印象付ける重要性さを痛いほど教えてくれていたのです。残念ながらまるか食品はそれを他山の石として活かすことができなかったのです。危機管理対応は、他社の不祥事対応事例をもってもし自社で同じ事例が生きたならと受け止め、対応策を想定する日頃からの心掛けも大切なのです。

まるか食品はいつまで製造ラインを止めるのでしょうか。しかし仮にかなりの時間を経たとしても、同社から「食安全性を守る>自社の利益を守る」姿勢を印象付ける改善策が明確に示されることがないなら、一度安全面で地に落ちたブランドイメージの回復は本当に難しいということもまた、マクドナルドの一件が教えてくれているのです。危機管理対応の初動を誤ったまるか食品再起への道は、現段階では限りなく険しいと言わざるを得ないでしょう。

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