日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

経営のトリセツ72~高円寺死亡火災に見る「5S欠如」の教訓

2009-11-24 | 経営
久しぶりに「5S」の話です。3連休の週末の早朝の高円寺で起きた飲食店での4人が死亡した火災事故。原因が明らかになるにつれ、「5S」の徹底がされていれば事故は防げた、と思われる部分が明らかになってきました。

「5S」とは、「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「躾(しつけ)」の頭文字をとってそう呼ばれています。この考え方、もともとは生産現場における「見える化」管理の手段として、トヨタ自動車をはじめ優良製造業の間で古くから日常的に使われてきた手法です。最近では、管理部門はじめあらゆる分野において「見える化」による効率化やリスク回避策の有効な手立てとして活用されています。今回の火災の一件は原因が分かるにつれ、典型的な「5S」欠如による“人災”との印象が強く、『もし「5S」が出来ていれば…』という視点で検証してみたいと思います。

まず、火災発生原因。新聞報道によれば、厨房で焼き鳥を焼いていた時に肉の脂に点火して周囲に飛び散ったものが壁に付着していた油に引火し燃え広がったとのことです。最大の問題は壁に付着していた油という話。現場の火災前の写真を私もテレビで見ましたが確かに厨房内の金属フードだけでなく周囲の壁にも黒い付着物がかなり広範囲にわたってハッキリと見てとれました。まさしく「清掃」「清潔」の欠如でしょう。「清掃」とはきれいにすること、「清潔」とはその「清掃」した状態を保つことです。たかが「清掃」、されど「清掃」なのです。

もうひとつ報道から明らかになった4人もの方々が犠牲になった原因として、非常口の機能不全が指摘されています。店内には出入口以外にももう一か所、座敷付近に非常口があったようです。しかしながら、この非常口の扉の前には座布団がうず高く積まれ使える状態ではなく、来店客はその存在すら知らなかったと言います。これは明らかな「整理」「整頓」の欠如です。ものの置き場所について全く考えられていない、流れのままにいい加減なモノの保管をしている。そんな状況が非常口前にモノを積み上げて、出口をふさいでしまっていたと言えるのです。「整理」は使いやすく整えること、「整頓」はその状態を保って効率的なものの置き場を維持することです。「整理」「整頓」の欠如が、人命を救えたであろう「命の出口」をふさいでしまったのです。

これらのそもそもの原因は、「清掃」「清潔」管理不在、希薄な「整理」「整頓」意識をもたらした「躾(しつけ)」の欠如にあるのです。恐らくこの店の経営者自身が自己の「躾」ができてなく、結果として店員もみな「清潔でなくていい」「整理されていなくていい」という意識が蔓延していたのではないのでしょうか。そう考えると偶然の事故ではなく、まさに欠陥管理によるいつ起きてもおかしくない必然的事故=人災であったと言っていいのではないかと思えるのです。

以上今回の火災事故の原因を「5S」的に検証したものですが、一般の中小企業経営においても同じようなことが起こりうると思います。もちろん火事で死者が出るかどうかではなく、「整理」「整頓」「清掃」「清潔」の意識が社内になくいい加減な管理が横行していると、経営資源のムダ遣いやリスクの埋没が企業経営に多大なダメージを及ぼすということです。そしてそれらを引き起こしている大元の原因は「躾」の欠如。経営者自身の「躾」がなっていない場合はそこから正す必要がありますが(世襲の2代目、3代目経営者に多いパターンです)、経営者は分かっていても社員の「躾」ができていないケースでは、とにかく積極的に経営者自身が言い続けること指導し続けることで意識づけをしていく以外に近道はありません。「5S」が経営者の主体的関与なしでは成功しないと言われる所以はそこにあります。

飲食店における死亡火災事故の発生は、企業に置き換えるなら「倒産」に相当します。企業が生き物である以上、「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「躾」の精神は不可欠な要素と言っていいでしょう。景気が好調な時代ならまだしも、今のような不況下では「5S」欠如による“事故”の発生や非効率の積み重ねは、いつ大きな“死亡火災”を招くとも限りません。危機回避に向けた「5S意識」の欠如解消は、まずトップが先頭に立って自ら進めることが肝要です。今回の高円寺死亡火災事故は、「5S」の重要性の観点から不況下の中小経営に警鐘を鳴らしていると思えた次第でした。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿