日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

経営のトリセツ88~「ワールド・カップ」マネジメント的雑感

2010-06-30 | 経営
サッカーのワールド・カップ南アフリカ大会、日本は大健闘したものの昨日ベスト16戦で強豪南米のパラグアイにPK戦の末敗れ、惜しくも初のベスト8進出はなりませんでした。大会前は散々な評価だった岡田ジャパン、小職も日本チームは応援しつつもマネジメント的観点から岡田批判を述べた一人であり(6月12日付:監督人選ミス、ミスビジョン設定、リーダーとしての資質)、懺悔の意も込めて今大会で予想以上の活躍ができた岡田ジャパンの成功要因を、同じくマネジメント的観点からながめ経営に役立つヒントを探り出してみたいと思います。

まず第一に、各マスメディアから絶賛されているチームワークの良さという点。「大会が始まってからチームとしてどんどん成長した」という言われ方をしているように、激しい日本代表バッシングの中、初戦格上のカメルーン戦で勝利できたということが逆境を勝ち抜いた同志としての結束を固くし、結果的に本番でのチームとしての成長につながったのだと思います。本田選手も昨日の試合後「応援してくれた人たちと同様、批判してくれた人も我々にとっては力になった」と言っていたように、組織にとって逆境は辛いモノですが、それを強く認識させられ皆で乗り越えようというメンバー共通の強い目標意識が生まれることは組織結束の点で大変重要なことなのです。今の時代の企業に置き換えるならこれは「危機意識」の共有に他なりません。苦しい時代のマネジメントにおいては、経営者はいかにして社内のメンバーたちに「危機意識」を共有させられるか、手を変え品を変え何としてでも「危機意識」を強く持たせチームワークを強化する策を講じること、それが「不況に勝つ企業づくり」には不可欠であるのです。

次に、「守り」の堅さ、「守り重視」の姿勢。昨日のゲームや予選リーグでのオランダ戦を見ても、南米やヨーロッパの強豪を相手に、勝てはしなかったものの互角に近い「いい勝負」に持ち込み、「もしかして勝てるかも」との期待感をメンバー間に持たせそれを推進力に変えることができたのは、まさしく「守り」の堅さあってのことであると思います。具体的には中沢、闘莉王の大型ディフェンスの活躍による「守り」の安心感と、ワン・トップの本田までもが即守備にも加わるという全員守備を基本とした「守り重視」のチーム姿勢が、日本の躍進を支えて来たと言えるでしょう。企業で言うなら「守り重視」とは、製品・サービスの「品質」をすべてのメンバーが大切にし重視することに他なりません。例え“攻撃担当”の営業部隊であろうとも、常に自社の製品・サービスの「品質向上」を念頭に置いた活動を徹底させること、そこから生まれる安心感と自信が“成長企業”を支える礎(いしづえ)になるのです。

最後にもうひとつ。散々批判された、大会前の練習試合4連敗の件です。一部メディアや評論家からは、「大会前は勝てる相手と多く試合を組んで、“勝ち癖”と自信をつけさせるべき」との批判がありましたが、これは逆でしょう。結果論ではなく「本番前こそ、強い相手と試合をすべき」はある種のセオリーでもあり、今回も正解であったと言えます。例え負けても強い相手と一戦交えることで、強い相手の“強さ”を知り、その戦いの中から攻めも守りも自分たちのレベルアップにつなげることができるのです。他分野の下世話な例をあげれば、競馬において牡馬と戦って連敗の牝馬が牝馬同志のGⅠ戦で穴をあけたり、夏に古馬と戦ってきた三歳馬が秋の三歳GⅠで激走したり、というのもまったく同じ論理なのです。企業で言うなら、同業としてライバル視し分析の上対抗戦略を検討する相手には、自社よりも2ランクぐらいは上の企業(あるいは大きな企業)を選ぶべきということなのです。上の企業をライバル視するなら自然とやるべき施策は高度なモノにならざるを得ず、確実に自社の成長につなげることができるからです。

このように今回のサッカー日本代表チームは、マネジメントの観点からもいろいろ考えさせられる材料を提供してくれました。チームプレーで目標を目指すことは、結局コミュニケーション・サークルの勝負ですから、スポーツも企業も基本は同じなのです。今回の日本チームの活躍に、勇気づけられた不況に苦しむ経営者も多いかもしれませんが、勇気づけだけではなく、上記のような観点でぜひとも具体的に今日からの経営に役立てていただきたいものです。

最後に日本チームの皆さんの大活躍に、心から拍手を送りたいと思います。