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陸海軍けんか列伝

日本帝国陸海軍軍人のけんか人物伝。

473.東郷平八郎元帥海軍大将(13)山本軍務局長は、「東郷大佐め!」と唇を噛みしめた

2015年04月17日 | 東郷平八郎元帥
 聡明の聞こえ高かった伊藤博文(いとう・ひろふみ)内閣総理大臣(山口県光市・松下村塾塾生・英国留学・奇兵隊の高杉晋作の下で討幕運動・明治維新後は外国事務局判事・初代兵庫県知事・初代工部卿・初代宮内卿・初代総理大臣・初代枢密院議長・総理大臣・貴族院議長・初代韓国統監・ハルピン駅で暗殺される・従一位・大勲位・公爵)は、カンカンになって怒った。

 今、清国の外にイギリスまでも敵にまわしては、日本帝国は滅亡するかもしれない。伊藤総理は海軍への怒りで冷静な判断力さえ失くしかけていた。

 伊藤総理は官邸から、秘書官に電話をさせて、海軍大臣・西郷従道(さいごう・じゅうどう=つぐみち)大将(鹿児島・西郷隆盛の弟・陸軍少将・陸軍小輔・陸軍中将・陸軍大輔・陸軍卿代理。近衛都督・特命全権公使・文部卿・陸軍卿・農商務卿・陸軍卿・伯爵・海軍大臣・予備役・内務大臣・枢密顧問官・海軍大臣・海軍大将・海軍大臣・侯爵・功二級・元帥・従一位・大勲位)に、「すぐ来るように」と呼びつけた。

 西郷海軍大臣が来ると、伊藤総理も少し気分が治まっていて、「おー、来たか」と言って立ち上がり、「西郷さん、馬鹿なことがあって、どうしたらよいか、迷うているところじゃ」と言った。

 西郷大臣「ははぁ、そや、どぎや事でごわすか」。

 伊藤総理「君は、知らぬのか」。

 西郷大臣「まだ何も聞いておらぬが、全体、何を怒っていなさるのか」。

 伊藤総理「浪速艦長の東郷が、イギリスの商船を撃沈してしまったのじゃ」。

 西郷大臣「そや事な、あったのでごわすか」。

 伊藤総理「これは、意外千万じゃ。海軍大臣の君が、それを知らぬとは、何という事か」。

 西郷大臣「支那の軍艦ばかりでなく、イギリスの商船まで撃沈したというのは、きつか事じゃ」。

 伊藤総理「軍人というものは、戦さえすれば、それでよい、と考えておって、国際法の事などは、少しも考慮のうちに置かぬから、こういう馬鹿な事を仕出かすのじゃ」。

 西郷大臣「東郷という奴な、若か頃から、法外の馬鹿者でごわした。ハッハハハハ……」。

 伊藤総理「そんな馬鹿者を、艦長にしておいたのは、君の責任じゃ。君は、これを、どうする考えか」。

 西郷大臣「このことは、我輩の所管であるから、とにかく、任せてもらいたい」。

 伊藤総理は海軍大臣に怒りをぶちまけただけでは足りずに、軍務局長・山本権兵衛(やまもと・ごんのひょうえ)海軍中将(鹿児島市鍛治屋町・海兵二・巡洋艦「高雄」艦長・海軍省主事兼副官・少将・軍務局長・中将・海軍大臣・男爵・大将・海軍大臣・伯爵・首相・予備役・退役・首相・従一位・大勲位・功一級)を首相官邸に呼びつけた。

 「こんな重大事を惹起して、海軍はその責任をどうするつもりだ」と伊藤総理は、思わず拳をかためてテーブルを一撃した。そのはずみに、ブランデーを盛ったテーブルの上のコップがポンと空中に跳ね上がって床の上に落ちて、木っ端みじんに砕けた。

 明治二十七年七月二十七日午後二時、山本軍務局長は、「高陞号」撃沈の電報を受け取った。その電文を読み、山本軍務局長は、「東郷大佐め!」と唇を噛みしめた。

 そして、山本軍務局長は、東郷平八郎の顔をはっきり眼前に浮かべて、「ケスイボ!」と叫んだ。「ケスイボ」は、鹿児島弁で「出しゃばって余計な事をやらかした」という意味だった。以後しばらくの間、東郷大佐のあだ名は「ケスイボ!」となった。

 「高陞号」撃沈事件で、英国政府が、日本に対して態度を硬化させたとの報告は、清国の北洋艦隊にも伝わった。

 北洋艦隊の管帯連(艦長たち)の中には、「無智の東郷大佐のおかげで、英国は必ず日本を敵視するだろう。英国が清に味方してくれれば、日本艦隊はたちまち潰れる」と、老酒を飲み交わしながら乾杯する気の早い者もいた。

 その中で、林総兵だけは、嘆息まじりで、丁汝昌(てい・じょしょう)提督(中国廬江県・太平天国軍・李鴻章の淮軍・劉銘伝部隊・提督総兵官・新海軍創設参与・北洋艦隊提督・日清戦争で日本の連合艦隊に包囲され服毒自殺・五十九歳)に次のように語った。
 
 「東郷のとった措置は至極もっともで、疑問点は何一つありませんよ。もし、小官が東郷の立場であったなら、おそらく、同じ手段を取ったに違いありません。冷静で分別に富む英国政府は、「高陞号」の件で、日本を敵視することは絶対にないと信じます」

 「管帯連がこの事件をきっかけに、英国とわが連合艦隊が組めるかのように錯覚し、喜んでいるのは思慮浅薄もいいところで、後に管帯連の中に、失望落胆する者が現れるのは、火を見るよりも明らかで、気の毒に思えてなりません。提督の方からも、それとなく、喜色満面の管帯連を訓戒してください」。