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陸海軍けんか列伝

日本帝国陸海軍軍人のけんか人物伝。

471.東郷平八郎元帥海軍大将(11)日本軍の命令に従えば、軍規によって死刑に処する

2015年04月03日 | 東郷平八郎元帥
 ウオルスェー船長「もし、騒ぎが起こると、困りますから、どうぞ、しばらくの間、待ってください」。

 人見大尉は、船上の騒がしい状態を見て、船長が心配するのも無理はないと、考えた。

 人見大尉「こういうことにしましょう。自分は、これから、『浪速』に引き上げるから、そのあとで、よく相談をなさい。しかし、船の事は船長に全責任があるのだから、私が命令した事に対しては、すでに承知したものとみて、よろしいか」。

 ウオルスェー船長「それは、よろしいです」。

 船長が人見大尉の言う事に逆らわなかったので、人見大尉は、「浪速」に引き返して、臨検の顛末を東郷艦長に報告した。

 東郷艦長はイギリス留学時代、商船学校で学んだ。今、英国商船「高陞号」は、敵国の清兵と大砲を積んでいる以上、まさに敵の船である。だが、東郷艦長は、「高陞号」がうまく捕獲に応じてくれるように祈った。

 東郷艦長は「高陞号」に対して、「ただちに錨を上げろ」と信号を発した。随行させるつもりだった。だが、「高陞号」は抜錨する様子もなく、動きはなかった。

 「高陞号」の船長や乗組員は、清兵たちに脅迫されていた。三部隊から清兵は組織されており、それぞれの指揮官として三人の大佐がいた。

 この三人の大佐が、イギリス人のウオルスェー船長に「浪速」に連行されるのを拒絶せよと脅迫していた。「日本の軍艦の言う通りに絶対動いてはいけない」「勝手な行動を取ると銃殺する」。

 ウオルスェー船長は「自分たち英国人は今度の戦争には関係ない。自分たちだけでも、日本の軍艦に移乗させてくれ」と頼んだが、むなしい抵抗だった。

 そこで、ウオルスェー船長は「重要な事がある。相談したい」という信号に続いて、「ボートを送られたし」と、信号を「浪速」に送った。

 東郷艦長は再び、人見大尉を派遣することにした。そして東郷艦長は人見大尉に次のように訓令を行なった。

 「清兵がもし、我が命に従わないような状態があったら、欧人船員に肝要な事とはどういう事かと聞け。そして船長以下の非戦闘員等が、我が艦に移乗したいという希望があったら、ボートに乗せて連れてこい」。

 人見大尉らがカッターボートで再び「高陞号」に出向いてみると、甲板上は、清兵達が多数集まっていて、火事場のような騒ぎだった。ウオルスェー船長に対しては、清国将校等が取り囲み、身辺に迫って脅迫がましい文句を述べていた。

 人見大尉は、大声で、清兵たちに、ウオルスェー船長を離すように一喝した。清兵は、びっくりして、しぶしぶ、ウオルスェー船長を解放した。

 ウオルスェー船長は「私はあなたの命令に服従しようと思うが、清兵はこの船を大沽に戻せと言っているのです」と、人見大尉に言った。

 ウオルスェー船長としては、「浪速」の命令のまま随行したいし、また移乗もしたかったが、清国将校等は「清国政府で雇っている以上は、清国将校の命令に従うのが当然だ。強いて日本軍の命令に従えば、軍規によって死刑に処する」と脅かしていたのだ。

 また、「この船は英国に籍があるから、いかに乱暴な日本軍でも中立の商船に危害を加えるようなことは断じてない」と煽り立てる者もいて、船内は騒然として、不穏な形勢だった。

 人見大尉はそのような状況を把握すると、「最後の手段として、船長は、この船を見捨てて、脱出するほかないでしょう」とウオルスェー船長に通告した。

 人見大尉は引き返して、その旨を東郷艦長に報告した。東郷艦長は、「高陞号」の船長に対して、「ただちにその船を見捨てよ」と信号を発した。「船長と乗組員は、その船を見捨てて、こちらに来い」と伝えたのだ。

 だが、これに対して、ウオルスェー船長は「ボートを送られたし」と答信するのだった。

 このとき、形勢はいよいよ険悪化していたので、ボートを送ったら、見境のない清兵等は何をするか分らなかったので、東郷艦長は「ボートは送られぬ」と信号を発した。

 すると「高陞号」から「許されぬ」という簡単な信号が送られて来た。