世に驚きは尽きぬもの。
以前にも書いたが、若い頃の私はクラシック音楽を好まなかった。なんとなく気取っているとの思いがあり、偏見丸出しで嫌っていた。ただ大学生の頃からジャズ喫茶に出入りするようになり、ジャズ・ピアノの生演奏は悪くないとも思っていた。
実際、カセットテープに録音したビル・エヴァンスの曲を北アルプスの3千メートル級の稜線で、満天の星空の下で聴いた時は身震いするほど感動したものだ。やがて社会人になり、難病でリタイアしてからは、心の平静を保つための一環として、ピアノの曲を一人静かに聴くようになった。
率直に言って楽器を弾けない私には演奏技術の良し悪しは分からない。だから私はこの奏者ならば、他のも聴いてみたいと思う以外に判断の基準はない。実際、同じ曲を弾いていても、ピアニストによって違って聴こえるから不思議なものです。
コロナ禍で自宅待機を強いられた際、随分とインターネットの動画配信を視聴していた。自宅ではノートPCを使っているので、正直音質は良くない。だから外付けのスピーカーを使っているが、十代の頃は自作スピーカーに凝った経験がある私には些か不満。でも少しづつではあるが、外付けスピーカーの品質も向上していることは認めている。
動画を視聴するようになると、画質の向上を求めるようになり、有名メーカーの既製品ではなくBTOのゲーミングパソコンを愛用するようになった。高機能の情報処理を必要とするPCゲーム機は、画像の処理速度だけでなく音質もまた向上していると知ったからだ。
実際、5年ほど前に買った外付けスピーカーよりも、ゲーミングPCの内蔵スピーカーの方が音質が高く感じられたぐらいだ。ただし音量を大きくすると差が出てくるが、これは致し方ない。やはりスピーカーのサイズが大きい方が性能的には高い。音量が小さいと気がつけませんけどね。
新しいPCの音質に満足したせいか、年末年始は音楽系の番組を視聴していたのだが、ここで思わぬ収穫に出くわした。それがヴァイオリニストの吉村妃鞠さんである。まだ小学生でありながら、世界中のコンクールを総なめしている天才音楽家だ。
なにせ若き音楽家のコンクールだけに皆がある程度上手いとはいえ、審査員たちは退屈さに耐えているのが傍目にも分かる。そこへ小柄な女の子が登場するが、審査員は眠たげなまま。ところがいざ演奏が始まると審査員は驚いたように背筋を伸ばす。そして真剣な表情で聴いているのがはっきり分かる。
そりゃそうだろうと思う。私とて思わず座り直して背筋を伸ばして聞き惚れたほどだ。私はこれまで特段ヴァイオリンという楽器に興味がなかったし、ソロの演奏自体聴いたことがなかった。そんな私でもこの少女のヴァイオリンの演奏がずば抜けていることはすぐに分かった。
コンクールでの演奏が終わり採点されるのだが、3人の審査員はいずれも満点を出した。それどころか、アンコールを求めるかのような拍手を続ける始末。司会者が妙に嬉しげに困っているのがおかしかった。
この少女こそが今、話題のヴァイオリニストの吉村妃鞠さんである。今までヴァイオリンに全く興味がなかった私を驚愕させた驚異の演奏者である。機会がありましたら是非ご視聴ください。