のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『アイアン・スカイ』

2012-10-14 | 映画
近所の幼稚園で、運動会のBGMに「ルパン三世テーマ(’78)」が使われておりました。
何だか納得がいきません。
とても。

それはさておき
米共和党を全力でコケにした映画『アイアン・スカイ』を観てまいりました。

映画『アイアン・スカイ』オフィシャルサイト

SFアクションという位置づけで売り出されているようでございますが、本作をジャンル分けするならむしろ「風刺コメディ」でございましょう。風刺の対象はアメリカのみに留まらず、国連を通じて地球上の全大国(と、大国のフリをしたい国)におよび、映画的お約束が惜しげもなくつぎ込まれてはこれまたコケにされ、『博士の異常な愛情』的にある意味爽快なエンディングを迎えるのでございました。
原案はフィンランド発ながら、出来上がったものはフィンランド、ドイツ、そしてなぜかオーストラリア(オーストリアではなく)の合同制作。こういう作品に協力してしまうドイツ、懐が深いですね。

映画『アイアン・スカイ』予告編


予告編↑では単にナチが月から攻めて来るというトンデモSFとしか見えないのが残念でございます。
まあ実際、トンデモSFアクションとして見ても、なかなかに楽しめる作品ではございました。
ハイテクとローテクの入り交じった月ナチスのメカデザインは無駄にカッコよくて、見ているだけでもワクワクしますし、完成はしたものの稼働できずにいた超巨大要塞(その名も”神々の黄昏”)が偶然手に入ったiphonひとつで動き出すというバカバカしさもいい。また宇宙での戦闘シーンは、インディペンデント映画でよくぞここまで、と思うほど迫力がございました。
その戦闘シーンでは観客の期待を裏切ることなく「ワルキューレの騎行」が高らかに鳴り響き、どさくさに紛れてドイツ国歌の一節が飛び出したりと、サントラの悪ノリっぷりにも気合いが入っております。

しかし本作はやはり風刺映画としての側面がもっと推されてしかるべきではないかと。
地球に派遣された月ナチス(称して”第四帝国”)の先遣隊が、その高いプロパガンダ能力を買われてアメリカ大統領選の広報担当に抜擢されるのなんて、なかなか気の利いた皮肉ではございませんか。
爆撃されるニューヨークの映像を見ながら「やった!戦時の大統領は再選確実よ!」と喜ぶ米大統領(どうみてもサラ・ペイリン)とか、宇宙の平和利用協定を実はどの国も守っていないことですとか、月に資源があるとわかったとたんに始まる国連会議での大乱闘など、風刺がストレートすぎてひねりがない、とお思いの方もいらっしゃいましょう。しかしワタクシはハリウッド的紋切り型への風刺も含めたこの映画のわざとらしさ、「いかにも感」が、いっそ清々しく感じられました。所々テンポの悪い部分もあるものの、全体としては「真剣に馬鹿やってる」感がみなぎっておりまして、何もかもひっくるめていとおしくなってしまう類いの作品でございました。



サラ・ペイリンの物真似で食べて行けそうな米大統領役の方(ステファニー・ポール)も、調子に乗って軍司令官へと怒濤の大出世をとげるセクシーな選挙公報係(ペータ・サージェント)も、型通りの「重大事件に巻き込まれる気のいい黒人」を演じきるヒーロー?(クリストファー・カービイ)も、なぜか出ているウド・キアーも、あらゆるシーンで可愛かったナチス娘、レナーテ(ユリア・ディーツェ)も、みな素晴らしかった。しかし最大の拍手はクラウス・キンスキーを長身にしたような、つまり「こわくて悪いドイツ人」を絵に描いたような風貌のアドラー総統を演じていたゲッツ・オットーさんに送りたいと思います。
ようやった。いろんな意味で。