のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『誰も知らない基地のこと』

2012-10-01 | 映画
沖縄では10万人以上のひとびとによる反対の声を無視して配備された噂のオスプレイさんですが
アメリカ本国での飛行訓練は、地元民1600人の反対意見を受けて、めでたく無期延期になったのだそうで。
へえ。

米でオスプレイ訓練延期 地元住民が反対運動 - 琉球新報 - 沖縄の新聞、地域のニュース


映画『誰も知らない基地のこと』予告編


あえてリンクはいたしませんけれども、youtubeには約75分の作品全編がupされております。
”Standing Army - The American Empire”で検索するとヒットします。日本語字幕はございませんが、比較的平易な英語で聞き取りやすいです。ナレーション部分は英語字幕つき。沖縄も舞台となっておりますので、日本語で語られている箇所も少なからずございます。

土地を徴用され、60年以上に渡って基地への抗議を続ける島袋善祐さん
「米軍基地というのは、土地だけ奪ったんじゃなくして、人の命も奪って、文化も歴史もみんな奪ってる。これは許してはならん。世界の平和のために基地を使う、とか言うけれども、朝鮮戦争、ベトナム戦争、あるいはイラク、そこらへんをよく見ると、必ず人を殺している。人を殺すために自分たちの土地が使われるのは非常に心が痛い。コックに『私は料理するから包丁を貸してくれんか』と言われたら貸してもいいけれども、『人を殺すから包丁を貸して』と言われたら...」

元CIA顧問の国際政治学者チャルマーズ・ジョンソン
「ソ連のことは脅威だと思っていた。実際、脅威だったろう。我々は確かに、ソ連に対して自国を防衛する権利を持っていたと思う。考えが変わったのは1991年のソ連崩壊後だ。アメリカは何よりもまず、新たな敵を探し出した。軍産複合体がそのままうまく機能して行くために、そして冷戦構造において最大限の利益を上げるために、敵が必要だったのだ。驚いたよ。ソ連が崩壊したからには、世界中にある米軍基地は解体されるべきだと思っていた。もう基地の存在意義はないのだから。それどころか、彼らはすぐさま新たな敵を求めた。中国、テロ、麻薬...何でもよかったのだ」
「1961年にアイゼンハワー大統領はこう警告した。『軍産複合体は議会の監督を受けない、隠れた権力だ。国益よりも私的な利益を優先し、制御不能になる恐れがある』。残念ながら我々アメリカ人はこの警告に耳を傾けなかった。そして今や軍産複合体は制御不能になりつつある。アメリカはもはや製造業における強国ではなくなった。この国がまだ優勢を保っている部門とは、兵器の製造だ。兵器の供給に関して言えば、アメリカは他のあらゆる国を楽々と凌駕している」


人類学者キャサリン・ラッツ
「ほとんどの米軍基地は戦争の産物、戦利品のようなものです。戦時中に奪われ、決して返還されない。屈強な男たちがやって来て、いやとは言えないようにしてしまう。そうして基地の出来上がりです」
「軍産複合体を考える時、基地がその一部であることを忘れてはいけません。...基地を建設し、運用し、武器を供給することによって利益を上げる企業が非常にたくさんあるのです」


歴史家ウィリアム・ブラム
「アメリカが世界のあちこちでこんなにも多くの軍事的介入をする主な理由は、基地を増やすためだ。例えば1991年のイラク爆撃後、アメリカはサウジ、クウェート、バーレーン、カタール、オマーン、アラブ首長国連邦に基地を置いた。99年のユーゴ爆撃の後はコソボ、アルバニア、ブルガリア、マケドニア、ハンガリー、ボスニア、クロアチア。アフガン爆撃後はアフガニスタン、パキスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギスタン、グルジア、イエメン、ジブチ。イラク侵攻後は、イラクに」

政治地理学者ゾルタン・グロスマン
「こうしたことの背後には究極の目的があると思います。これまでは戦争をするために基地が作られる、と考えられて来ました。しかしむしろ、戦争は基地を作り、そこに駐屯し続けるための絶好の機会なのです」

ベトナム退役軍人、平和活動家アレン・ネルソン
「(海兵隊に入隊すると)ステロイド注射を受けたみたいなものさ。毎日筋トレをして、銃やら何やらを持たされて、いい気分だ。誰にも負けないタフガイになったような気がする。そんな気分で街に出て、酔っぱらう。誰かと目が合いでもしたら「何見てんだ、俺は海兵隊だぞ」とケンカを売りたくなる。軍隊が求めるのは、そういう奴だ。法を守るとか、地元民との摩擦を起こさない、なんてことは、軍にとってはどうでもいいんだ」
「僕らアメリカ人は知るべきなんだ。他の国に基地を作るというのが、どういうことなのか。基地の存在が問題を解決するのか、あるいはむしろ、問題を生み出すのか。こう言ったらみんな怒るだろう、『我々は世界を警備しているのだ。どこに基地を置こうが我々の勝手だ』ってね。アメリカには外国軍の基地はない。アメリカにある基地は、米軍のものだけだ。それならいいさ。騒音だって何だって僕ら自身のものだからね。でも他の国の人たちにとって、これは大問題だ」


沖縄でヘリパッド増設に抗議活動をする男性
(ゲートを開けろと指示する作業班の人々に対して)
「俺たちが体はって止める理由わかる?こんな気持ちあなたにわかる?こんなに日本政府やアメリカ政府ににいじめられて来ても、俺たち沖縄の人が、アメリカ人をこの歴史の中で殺したことがあるか。あやめたことがあるか。婦女暴行され、ジェット機を落とされ、ヘリコプターを落とされ...この基地はそういう基地でしょう。この60年の苦しみを耐えて来てるんだ、僕らは。あなたは任務かもしれない。我々はここでの歴史的な任務だよ。次の世代にこのような歴史を与えない」

ワタクシは別にアメリカ人に個人的な恨みは何もございませんし、アメリカという国全体を嫌っているわけでもございません。そもそも、ある国や国民全体を嫌うなんて馬鹿げたことでございます。しかし、米軍基地拡張への大規模な反対運動が起きたイタリアの都市ヴィチェンツァをあげつらって、「ヴィチェンツァなんてどうでもいいんだよ。住人の4分の3は90歳以上だろう。たいした基地でもないし、煙も騒音も戦闘機もない。反対運動してるのは極左の奴らだろう。要するに騒ぎたいだけなんだ。あそこには戦車もないし、ヘリが落ちたこともないんだからな」とカメラに向かってのたまう米国防総省顧問の傲慢さには、ほとほとあきれるばかりです。

「土地を取り返したら、そこに大根を植えたい。そして収穫した大根を、沖縄のみんなに配ろうと思う」とは、引用の最初に挙げた島袋さんの言葉でございます。自分の土地に大根を植えることすらままならない。近づくことさえ許されない。これはいったい何なのでしょうか。
自国で反対の声が上がったために飛ばすことのできない航空機を、その何倍もの規模で反対されている他人の土地では「いやいや安全だから」と言って配備する。これはいったい何なのでしょうか。


ちなみに
本作の出演のなかで、元海兵隊員で沖縄での訓練後にベトナムに派兵されたアレン・ネルソンさんのお話を、ワタクシは数年前に講演でじかにお聞きしたことがございます。
聴衆に質問を投げかけながらのお話は、ごく穏やかな口調でありながらも、壮絶でもあり、痛ましくもあり、何となく分かったような気になっていた知識に対して平手打ちを食らわせるような厳しいものでもございました。
「軍隊は何をする所だと思いますか?軍隊に入ったら、まず何を学ぶと思いますか?自分を守ること?人々を守ること?...いいえ、軍隊というのは、人間が人間を簡単に殺せるよう調教する場所なのです」

退役後の激しいPTSDや自殺企図に次ぐホームレス生活から起ち上がり、平和活動家として執筆や講演を行ってこられたネルソンさんは2009年、枯葉剤の後遺症と見られる多発性骨髄腫で亡くなりました。
ご冥福をお祈りいたします。