のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『ナスカ展』

2007-08-23 | 展覧会


はいはい
と いうわけで
ナスカ展へ行ってまいりました。

いや、面白うございましたねえ。
何が面白いって、そのすぐれてポップなキャラクターデザインがでございますよ。
もっとプリミティブなおどろおどろしさのあるものを想像しておりましたが
土器に表された戦士や楽士やよっぱらいやヤオヨロズの神々の、何とまあかわいらしいこと。




現代のイラストレーターやポップアーティスト作品と見まごうようなものも多々ございまして
「これ実はロドニー・グリーンプラットが描いたんじゃろ」
「こっちは唐沢なをきが」などと思いながら見て回っておりました。
えっ
唐沢なをきをご存じない?
ではこの機会にお見知り置きを。のろは大好きでございますよ、なをさん。
ええ、人品を疑ってくださってけっこうでございますとも。

閑話休題。
色彩がまた素晴らしいんでございます。
赤茶を基調とした土器類もさることながら、織物の華やかな色使いに目を奪われます。
ナスカ文化の担い手はみな天性のカラリストであったのかと思うばかり。

厳しい自然条件のもと、ミイラ文化を育んだ古代文明といいますと
エジプトがすぐさま想起されますが、エジプト美術に見られるような厳格さと静謐は、ナスカ美術にはございません。
むしろその対極と言えそうな混沌とゆる~い雰囲気と、さらには作り手の遊び心さえも感じられる造形でございます。
エジプトが絶対的な王の支配する王国の文化であったのに対し
ナスカは王も貴族も首都も持たない、共同体の文化であったということが
造形のおおらかさに反映しているのでございましょうか。

とは思ったものの
乾燥した気候&ミイラという共通項だけで比較することにそもそも無理がございますね。

そうそう、そのミイラでございます。
主催者側にしてみれば不本意なことやもしれませんが
数ある展示品の中で、のろが最も心魅かれたのは
冒頭↑にメモ帳スケッチをさらしております「パラカス時代のものとされたミイラ」でございました。
なぜ不本意かと申しますと、本展の目玉はむしろ、チラシにもフィーチャーされております子供のミイラでございまして
この「パラカス時代のものとされた」成人のミイラは、ずっと紀元前5~1世紀のものと考えられていたのが
本展のためにいろいろ科学的に調査した結果、14~15世紀のものだと判明してしまったというシロモノさんだからでございます。
「間接的な証拠からの判断をそのまま受け取るのではなく、積極的に新しい技術や研究結果で過去の結論を検証していくことの重要性」
を示すために展示したとの解説がついておりましたが、企画したみなさんにしてみれば
「あちゃー」という心境だったのではなかろうかと。

さはさりながら さりながら
このひからびた死体氏がねえ、たいへん美しかったのでございます。

身体を小さく折り曲げ、上半身をこころもち捻り
顔を覆った両手の隙間から白い歯を覗かせたそのポーズは
あたかも悲しみの叫びをあげているかのようでもあり
自らの存在を恥じているようでもあり
消えて無くなろうと必死に努力している最中のようでもあります。
虫食いにいろどられた皮膚は固く皺がより、むしろ身体に密着した衣服のように見えます。
頭髪はほとんど朽ち果て、ごくごくうっすらと、ミシン糸のように細いものが
縦長に変形した頭蓋にへばりついているのがようやく見て取れるのみ。
一方、手足の爪は500年以上前に死んだ人のものとは思われないほどきれいな形で残っております。
骨張った指は痙攣的なポーズでこわばったまま、しかし須田悦弘の木彫のように静謐なたたずまいを見せております。

「で、それのどこが美しいのだ」と言われると困ってしまうんでございますが。
あるいは「美しい」というのとはちと違うかもしれません。
ムンクの代表的作品やゴヤの「黒い絵」シリーズにいわゆる「美しい」という形容がそぐわないのと同様に。
これらの恐ろしい絵が人の心を惹き付けるのは、もちろん「きれいに」描かれているからではございません。
言葉では表現しきれない情念、即ち恐怖、不安、狂気、貪欲などなどのないまぜになった暗い情念、
私達みなが持っていながら(私はそう信じます)光をあてることはめったにない闇の部分が、描かれているからでございます。
それは青髭城の一番奥の部屋のように、メデューサの首のように、
アンドレーエフが描き出したラザロの眼差しのように、私達を惹き付けます。

鑑賞者は自らの内にある、言語化できない「それ」を
マドンナのかたわらでうずくまる死んだ胎児や、我が子を喰らっているサトゥルヌスに投影して
見知らぬ人が画布の上に描いたイメージを「自分のもの」として読むのでございましょう。

それと同様に、ワタクシもこの死体氏のたたずまいに
しかと言語化できない「ワタクシ的なもの」を読んだのでございましょう。

もっとも初めに見た時は、何よりもまずLORDIのギタリストを思い出したことを
こっそり白状しておきます。



クチビルのめくれ具合がそっくりだったものですから。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿