のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』

2015-07-12 | 映画
いやはや、サイコーに面白かったのですよ。
何がいいって、臆面もなく世紀末ヒャッハーな所が実にいいではございませんか。

色々すごい改造車!
ひたすら無口な主人公!
地平線の果てまでうち続く荒野!
支配者と被支配者の絶望的な格差!
凶悪を絵に描いたようなヴィジュアルの悪党ども!
地獄のような砂嵐!それに飲み込まれて粉微塵に砕け散る人や車!
火器とチェーンとスキンヘッド!そして火を吹くダブルネックギター!ぎゅわわ~~ん!

でもって登場人物が揃いも揃ってまんべんなく熱い!
タフガイが熱い!
ヘタレ男だって熱い!
女たちも熱い!婆さんも熱い!
敵のザコどもまでが、思わず応援したくなる程に熱い!
生まれつき眼球がないっぽいギター弾きだの、ヴェルディのレクイエム背負って2丁マシンガン打ちまくるイカレ野郎だの、敵ながら死んじまうのが惜しいほどのはじけっぷり。


↓は本作の魅力が3分に凝縮されたミュージックビデオ。どのトレーラーよりもよくできていて、何度でも見てしまいます。

MAN WITH A MISSION×Zebrahead 『Out of Control (MAD MAX: FURY ROAD Ver.)』


話の筋はいたってシンプルで、要するに行って帰って来るだけなのです。しかし見ごたえあるアクションとメリハリのある展開、殺伐としているのに奇妙に美しい画面、そして濃いいキャラクターたちのおかげで1秒たりとも飽きることがありませんでした。むしろ筋立てが簡素であるがゆえに、過剰なまでにヒャッハー要素てんこ盛りであるにも関わらず、全体としてはとても引き締まった印象の作品でございます。

もののデザインも、砦や車といった大物から装身具などの小物まで、いちいち説得力があって結構でしたし、本筋とはあまり関わらないような細部の演出もよろしかった。とりわけグッと来たのは、オアシス村の生き残りである婆さまの1人が、大事な植物の種をナップザックや単なる箱ではなく手提げバッグに入れて持ち歩いているという細やかな設定。まあ女性が普段使いにするようなハンドバッグよりはかなり大きな代物ではありましたが、手許でそっと口を開く手提げバッグの形態は、あのマッチョ&マッドな世界においては思いがけなくフェミニンな小物に見えました。それはかつてのオアシス村やもっと少し生きやすかった時代を象徴するかのようでもあり、婆さまの女性としての矜持を示すささやかな砦のようでもあったのでした。

そうそう、女たち。
とても意外だったのが、女性の描かれ方でございます。実質的な主人公はマックスというよりも片腕の女戦士フュリオサでしたし、他の女性たちも単なるお飾りではなく、しっかりとストーリーを支えかつ廻しておりました。タンクの蔭で水浴びする薄着の女性たちが登場した時は「あー、守られ要員か」と思いましたし、実際初めのうちはあんまり役に立たなさそうに見えましたけれども、話が進むに連れて彼女たちも本格的に闘いはじめるんでございますね。それが例えば大勢の敵の一人をフライパンで殴ってやっつけた、という程度のものではなく、彼女らと、途中から仲間に加わる婆さまたちがいなかったら、マックスもフュリオサも生き残れなかったであろうという程の実際的な活躍でございます。無駄なお色気ショットもなし。またイモータン・ジョーの砦で”搾乳”されていた女性たちがラストで果した役割も、象徴的でよろしうございました。

そうはいっても『マッド・マックス』なので、ほぼ最初から最後までバイオレンスバイオレンスヤッホーヤッホーで突き進むわけですが、目を背けたくなるような描写はございませんでした。間口の広いエンタメ映画における暴力描写の作法をわきまえてらっしゃると申しましょうか。そういう点では、軽いノリとは裏腹に残酷な描写が多かった『キック・アス』などよりも、よっぽど安心して観られる作品でございます。昔のシリーズはもっと描写がエグかったような気がするのですが、どうでしたかしら。3作とも観たわりにはあんまりよく覚えていないのですが。

さて、作品の世界観を体現するようなタフガイでありシリーズそのものを象徴する主人公であるマックスは、外からやって来てコミュニティに救いをもたらしたのち去って行く、という西部劇的なヒーローの役割を演じます。実質上の主人公であるフュリオサは、その強い目的意識によって物語を牽引し、様々な苦難を乗り越えたのちに目的を遂げるという英雄物語的な人物を演じます。象徴的主人公であるマックスと実質的主人公フュリオサが共にタフで寡黙で英雄的で感情の起伏を容易には表現しないのに対し、主要登場人物の中で唯一よく喋るハイテンションヘタレ男のニュークスは、そのヘタレっぷりと純朴さゆえに最も共感し易いキャラクターであり、それゆえにその行く末はとりわけ胸に迫るものがございました。

独裁者イモータン・ジョーを崇拝し、自らの華々しい死と栄光の来世のことしか頭になかったニュークス。些末な道化であり狂言回しであった彼が挫折と立ち直りを経て妄信を捨て、最終的には他者の幸福を願って英雄的な行動を取るに至った流れは一種の成長譚であり、その点ではマックスやフュリオサ以上に、立派に主人公していた奴だったのでございます。おバカさとイノセンスと一抹の悲哀を体現して愛すべきキャラクターに仕上げたニコラス・ホルトの演技もまた、危機にあってもデキる男のオーラ漂うトム・ハーディや飽くまでも凛としたシャーリーズ・セロン(欲を言えば二の腕にもうちょっと筋肉つけてほしかった)に引けを取らない名演であったと申せましょう。個人的に好きなシーンは序盤でマックスに一瞬協力して、マックスの拳銃に弾をこめる所。
ちなみにコミック版ではニュークスのオリジンが語られているようですが、これ見ると名前の発音は「ナックス」が正しいようです。

Mad Max Fury Road - Origin of Nux


そんなわけで大満足の作品だったわけでございますよ。
これもやっぱり3部作くらいになるんでしょうかしら。
1作目がこんなにも素晴らしいと、続編はもう下降線を辿るより仕方がないのではないかと心配になってしまいますけれども、心配しつつも首を長くして待ちたいと思います。



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