のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

奈良観光

2009-11-12 | 美術
死ぬはずではなかった人たちが死んで行き、彼らの席にわたくしが居座って不当に生きているような気がいつもしております。

さておき

興福寺国宝特別公開2009 -お堂でみる阿修羅- に出かけて行ったのでございますよ。

お昼前に近鉄奈良駅の改札を出て、かの醜悪な「せんとくん」の看板を横目に奈良公園への坂道をてくてく上がってまいります。5分ほどで興福寺についてみたらば既に2時間待ちの行列が出来上がっておりました。待つのはやぶさかではございませんが、この様子では場内が「止まらずにお進みくださーい」状態であることは想像に難くはございません。わがまま者ののろはそんなコンディションで阿修羅像を拝むのは嫌でございましたので、特別拝観はあきらめて、かといってそのまま帰るのも癪なので、そこらをぶらつくことにいたしました。

構えも色どりも華やかな南円堂を見上げて


春日神社方向へぶらぶら上って行き、国立博物館前で正倉院展のために並んでいる行列を冷やかし、溝を飛び越そうとして滑ってこけ、道行く人に大丈夫かと気遣われ、ものすごく痛かったけれどもつとめて何でもない顔をして春日の森方面へと歩いてまいります。



1:しか。
ああ、帽子をかぶってぶらぶら歩いてデジカメで鹿の写真なんか撮って、まるっきり観光客みたいだ。まあ実際観光客なんですけれども。
2:春日の森を新薬師寺方面へと抜ける小径。なかなか鬱蒼としております。
3:三船敏郎が刀ぶん回しながら走り出て来そうな。
森を出ると静かな住宅地。奈良公園では夕方のムクドリのごとくわんさと群れていた修学旅行生も、ここまで来ると自由行動のグループをちらほら見かけるだけでございます。
4:民家の塀でツタが色づいておりました。傾いているのは水平をとるのを怠ったからではなく、坂道だからでございます。

新薬師寺はお堂のこぢんまりとした清楚な雰囲気や十二神将像の峻厳たるたたずまい、そして周辺のひなびた町並みと、歴史が醸成する魅力に恵まれた場所でございます。
しかしながらこのお寺には、そうした風情にそぐわぬ不粋な所がございます。
随分、ございます。
以下、独善を承知でぼやかせていただきます。
新薬師寺ファンの皆様、どうぞご寛恕のほどを。

まず「重要文化財 新薬師寺 ここ」というトタンの看板や婆娑羅大将の写真をフィーチャーした門前の立て看板。風情を損なってもとにかく観光客に入ってもらおうというなり振りかまわぬ感じが漂っていて、品がいいとは申せません。山門にはなぜか金銀一対の大きな蛙の置物が鎮座しておりまして、撫でられて頭部のメッキがすり減っている所を見るといささかの信心を集めてはいるようですが、古寺の趣を削ぐこと甚だしい。境内に雑誌『フォーカス』や新聞記事のコピーを貼り出しているのはいかにも俗っぽく、美しくございません。賛否両論のステンドグラスについてはワタクシは「賛」の方なのでございますが、「東方瑠璃光をお浴びください」などという書き付けは全くもって蛇足、余計なお世話でございます。それに暗い堂内にステンドグラスを通した光がさすという趣向でございますのに、その両脇に明々と火の灯った燭台を置いてしまっては効果半減ではございませんか。そして何より、相変わらず堂内でビデオを流しっぱなしになさっているのにはがっかりでございます。耳を閉じるわけにもまいりませんから、はなさんのナレーションが嫌でも、エンドレスで、聞こえてまいります。上映するなとは(1000歩譲って)申しません。しかしわざわざ十二神将像のうち最も緊張感みなぎり最も迫力に満ちた、間違いなく日本の仏像中屈指の傑作である伐折羅(バサラ)大将のすぐ側でやらんでもいいではございませんか。できることなら本堂以外の場所でやっていただけないものか。お茶やら湯豆腐やら頂ける所があるんでしょう。そちらでゆっくりお茶でも何でも飲みながら鑑賞していただいたら如何。

とまあ散々な感想を申しておきながら新薬師寺に足が向いたのは何故かと申しますと、やはりかの十二神将像が掛け値なしに素晴らしいからでございます。
小さな画像ですが新薬師寺のホームページで一体一体の姿が見られます。

初めてこちらの十二神将像にお目にかかった時には、伐折羅大将の総身に雷の満つるがごとき迫力にひたすら圧倒されたものでございます。今回訪れた際は、静のたたずまいを見せる摩虎羅(マコラ)大将像も心に残りました。伐折羅や迷企羅(メキラ)が火を噴かんばかりの形相をしているのに対し、摩虎羅は唇を引き結び、休めのポーズにも見える、力みを感じさせない立ち姿をしております。しかしきっと正面を見据える透徹の眼差し、四指をきっちり揃え緊張をはらんだ左手、そして胴体から少し離れて緩く湾曲する右腕は全体としてしんとした威厳を発しておりまして、神将の名にふさわしい造形でございます。他の神将像とは違ってすね当ての上からストンと垂れている下履きも、落ちついた印象をかもし出していて特徴的でございますね。

新薬師寺の十二神将像はよく「躍動感溢れる...」と形容されているようでございますが、のろはこの神将像にそれほど躍動感があるとは見えないのでございます。これを「躍動」と称したらラオコーン興福寺の金剛力士像が額に青筋立てて怒るこってしょう。
むしろ躍動を押さえに押さえた緊張感こそが、この神将たちの素晴らしさなのではございませんか。「躍動」として発散される寸前の激しい緊張をその全身にみなぎらせているからこそ、伐折羅大将のあの厳しさ、あの迫力があるのではないかと、のろは思います次第。

まあそんなことで
ばさらさんやまこらさんにいたく感動して、てくてくと帰路を辿って16:00過ぎに再び興福寺に戻ってまいりますと、依然としてチケット売り場前には「入館80分待ち」の看板が出ておりました。
ううむ興福寺さん、拝観は17:00まででしたよね。
というわけで、今回は阿修羅像とお会いすることは断念いたしました。なんでも、阿修羅さんが普段いらっしゃる国宝館は来年春に館内リニューアルを予定しているということでございます。おうちリフォームでございますね。国宝館は建物も展示方法も中途半端に無機質で、展示品の素晴らしさに釣り合わない投げやりな雰囲気がございましたので、改装は大歓迎でございます。

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