のろや

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アマデウスのこと

2010-10-18 | 映画
モーツァルトが「少し休もう」と言ったとき、サリエリが「私はちっとも疲れてない、続けよう」と答えますでしょう。あれ、単にモーツァルトを憔悴させるためだったのでございましょうか。それとも、目の前で生み出されていく神の音楽に夢中になるあまり、本当に相手の状態に気付かなかったのでございましょうか。普段の軽薄さのかけらもないモーツァルトと、まるで徒弟のように熱心に、従順に、モーツァルトの指示を譜面に書きつけて行くサリエリ。あの鬼気迫るシーンを見ますと、ただ単にモーツァルト憎しの感情に動かされて「続けよう」と言ったとは思われないのでございます。

というわけで
午前十時の映画祭で『アマデウス ディレクターズカット版』を観てまいりました。180分という上映時間は長いようでございますが、この素晴らしい作品に関して申せば、もっと長くてもいいくらいだとワタクシ思っております。
↓当ブログでの『アマデウス』の記事はこちら。たいしたこと書いてませんけれど。
モ忌 - のろや

ワタクシが前にこのディレクターズカット版を観たのは、みなみ会館においてでございました。老舗ミニシアターと比べるものなんでございますけれども、5年前にできたばかりのTOHOシネマズ二条はさすがに音響がよろしうございます。特に ずん ずん という低音が効いているドン・ジョヴァンニや最後のレクイエムのシーンはたいへん結構でございました。

それから臨席のお客さんがけっこう笑っていらしたのが、ワタクシには新鮮でございました。例えば、サリエリが作った歓迎の曲をモーツァルトが即興で作り替えてしまうシーンなどで。



確かにサリエリの表情といい、調子に乗りすぎなモーツァルトといい、ちゃっかり「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」のフレーズが入っていることといい、改めて見るとコミカルなシーンでございますね。しかしサリエリに少なからず感情移入してしまう我が身としては、笑っていいやら悪いやらといった所。

ところでハリウッドには「F・マーリー・エイブラハム症候群」という言葉があるそうでございます。これはサリエリを演じてアカデミー主演男優賞を受賞したF・マーリー・エイブラハム同様、オスカー受賞後に映画界でのキャリアが低迷する現象を指す言葉なのだそうで。近年ではハル・ベリーやキューバ・グッディングJrあたりもこれにあたると申せましょう。そういえばキム・ベイシンガーも最近さっぱり名前を聞きませんね。ミラ・ソルヴィーノなんてどこ行っちゃったんだろう。エイドリアン・ブロディは最近.....ああ、『プレデターズ』に出てたっけ。.....ううむ。
古くはフェイ・ダナウェイも含まれるこの症候群、こうして見るとけっこう根深いものがございます。一方当のエイブラハム氏ご本人は『アマデウス』後、主に舞台俳優として活動なさっていることもあってか、映画界におけるキャリア低迷は別に気にしていらっしゃらないご様子。これまた笑っていいやら悪いやら。