のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

川本喜八郎さん

2010-08-27 | Weblog
お亡くなりになったとのこと。
訃報をお聞きして全身から力が抜け、へたりこんでしまいました。
ご高齢でいらしたとはいえ、本当に残念でございます。

訃報:川本喜八郎さん85歳=人形アニメ作家 - 毎日jp(毎日新聞)

人形を少し動かしてはコマ撮りするストップモーションアニメにおいても優れた作品をたくさん制作された川本氏でございますが、ワタクシにとって川本喜八郎さんといえば、何と言っても『人形劇三国志』なのでございます。

NHKで人形劇三国志の放送が開始された時、ワタクシは6歳でございました。もちろんストーリーをきちんと理解できたはずはございませんが、よく分からないながらもとにかく面白く、毎週欠かさず見ておりました。子供ながらに贔屓の登場人物もおりましたし、顔も衣装も様々な人形たちがたくさん登場するのが楽しかったのでございます。

10年ほど経ってのろが中学生か高校生の時分に再放送がございまして、この時はまずもってストーリーに(相当無茶な部分もありますが)引き込まれました。また、声優陣の名演に伴われて人形たちが見栄を切ったり、泣き崩れたり、呵々大笑するさまを見て、人形でこんなにも繊細な表現ができるのかと感歎いたしました。全部ビデオに録画しておりましたので、放送が終っても好きなエピソードは繰り返し鑑賞したものでございます。諸葛孔明が登場する「三顧の礼」から、赤壁の戦いを経て劉備が荊州の大守に収まる「風雲 南郡城」までのあたりは、台詞をひとつひとつ覚えるほどに繰り返し見ました。それだけ見てもちっとも飽きなかったのでございます。

それからまた十数年経ち、職場のかたからお借りしたDVDで鑑賞した時は、カメラワークや演出の見事さ、そしてそれ以上に、人形それ自体の素晴らしさに、今更ながらぶったまげました。
三国志の登場人物は挿絵、イラスト、漫画、映画、ドラマ、切り絵、彫像などなど様々な媒体で造形化されてまいりました。しかし川本人形の孔明さんを超えるものには、ワタクシは今までお目にかかったことがございません。
いや、曹操しかり、関羽しかり、趙子龍しかり。あるキャラクターが担っている性格や、物語におけるその人物の役割といった分かりやすいイメージを体現する一方、単純に善・悪と割り切ることのできない人間的な複雑さと深みを内に秘めた人形たちは、まさしく芸術品でございます。

1993年から約1年に渡って放送された『平家物語』も、三国志ほど一体一体の際立った個性はなかったものの、野心とバイタリティ溢れる平清盛、いかにも腹に一物抱えていそうな後白河法皇、威厳はあるものの恐ろしく冷たい眼差しの源頼朝、そしてほれぼれするほど凛とした、しかしどこか幸薄そうな九郎義経と、主要な登場人物の造形はまことに素晴らしいものでございました。

川本さん、結果的に遺作となった『死者の書』のあと、項羽と劉邦を題材にした作品を構想中という話を小耳に挟みましたが、完成を見ぬままお亡くなりになったのでございましょうか。いずれにしても氏の逝去が惜しまれることには違いがございません。

今さらこんなこと言ったって何にもならないけれど

川本さん、本当にありがとうございました。
人生の折々で貴方の作品に触れられたことは、私にとって大きな財産です。
かくも多くの、かくも美しいものを世に出してくださって、本当に、本当に、ありがとうございました。

人形劇 三国志 テーマ曲 "Sangokushi (Romance of the Three Kingdoms)"