のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『無声時代ソビエト映画ポスター展』

2009-07-16 | 展覧会
無声時代ソビエト映画ポスター展 へ行ってまいりました。
常設展示室の一角を使っての展示で、ちょっとせせこましい感じがいたしましたが、420円という常設展料金で見られるのでございますから、まあ文句は言えません。

大胆なレイアウトと円や対角線を多様した独特のデザイン、鮮烈な色彩感覚に彩られたポスターはどれも面白く、映画の宣伝というだけでなく時代の芸術をも担っていたポスター・デザイナーたちの心意気を感じさせます。
とりわけ素晴らしかったのは、チラシにも使われておりますステンベルク兄弟作『カメラを持った男』でございます。



画面中央へと集中するビルの稜線と、不思議なポーズの、しかも手足と頭だけの女性が視線を引きつけます。女性は躍っているようでもあり、背景の高層ビルから落ちている真っ最中のようでもあり、目を見開いた曖昧な表情がいっそう興味をそそるではございませんか。カメラのレンズを思わせる文字の配置といい、黒い空へ向って伸びる色とりどりのビルといい、実に見事なデザインでございます。

同じくステンベルク兄弟の『帽子箱を持った少女』


これなども大変洒落ておりますね。上の顔は取って付けたような感じがいたしますけれども。
ステンベルク兄弟の作品は↓こちらでいろいろ見られます。
Katyusha-HD: stenberg brothers
Stenberg Brothers Posters at AllPosters.com
Speak Up Archive: The Stenberg Brothers in 200 Words

ソビエト無声映画と言えばのろは『戦艦ポチョムキン』くらいしか存じませんから、革命バンザイとかプロレタリアわっせわっせなイメージしかございませんでした。今回、ドタバタコメディや不倫のからむサスペンスもののポスターなどを見るに及んで、「ソビエト」に対して自分が持っているイメージがいかに大ざっぱなものであるかを痛感した次第でございます。
とりわけ驚いたのが『メアリー・ピックフォードの接吻』という作品。ポスターもソ連の横尾忠則が作ったのかと思うような仰天デザインでございましたが、ソ連映画にメアリー・ピックフォードとダグラス・フェアバンクスが出ているというのが何より驚きではございませんか。何でも、2人がモスクワを訪れた際のニュース映像をうまいこと編集して、別撮りした映像と合わせて一本の作品に仕上げてしまったのだとか。このしたたかな手法にもたまげますが、ハリウッドの大スターがソ連においても人気者だったということが、のろには意外でございました。考えてみれば米ソ両国、決してずっと一貫して仲が悪かったというわけではないんでございますね。
詳しくはこちらを。

また全体として面白かったのが、文字の入れ方でございます。
字体はみな同じような、太く角張ったゴシック体でございまして、瀟洒な字体はほぼ見当たりません。そんな中、デザイナーたちはいかに配置するかで差異化を図ったものか、縦に斜めに円形に、時には画面を埋めつくすように置かれた文字は、単に文字情報という機能を越えた絵的な効果を発しておりました。

常設展示室の一角で開催中と始めに申しましたが、3階の企画展示室を使ってもっと大々的にやってくれてもよろしうございましたのに。現在の企画展『前衛都市 モダニズムの京都』があまり面白く感じられなかっただけに、そんなことも思ったのでございました。