のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『オルセー美術館展』2

2006-11-28 | 展覧会
11/26の続きでございます。

第3章 はるか彼方へ

「アルルのゴッホの寝室」「日傘を持つブルターニュの女たち」など
タイトルからして おもっきり近場じゃー とツッコミを入れたくなるところではございますが
ここでの「彼方」とは、地理的のみならず、心理的・精神的な遠方のことを指しているのだそうで。
よって、はるか東洋の美術である浮世絵からの影響や、文明に毒されていない生活へのあこがれという点で
どちらも「彼方」に目を向けた作品であると言える、というわけでございます。
ちょっ と 苦しいんですけど。

前セクション「親密な場所」では主に印象派の作品が展示されていたのに対し
こちらのセクションはポスト印象派の作品が占めております。
平面的、装飾的に処理されたモチーフや、くっきりとした輪郭、
正確な遠近法にとらわれない描き方など
印象派を脱して新たな絵画表現を模索する画家たちの型破り(当時)な作品は
ここまでの展示で写実的な表現に慣らされた目には、実に新鮮に感じられました。

絵画のほか、イスラム美術の影響を受けた工芸品や、
エジプトや中近東の風景を記録した写真もございます。
その中になぜかフローベールが写っていたりもします。

第4章 芸術家の生活 ーアトリエ・モデル・友人ー

さあ「すみれのブーケをつけたベルト・モリゾ」、満を持しての登場でございます。
展示室の中では小さめの作品ながら、強い存在感を発しておいでなのですよ。

きらりと光る眼差しに ぐぐい ぐい ぐい と惹かれて近寄って行きますと
意外なことに、瞳にとりわけハイライトが施されているわけではないんでございます。
してみると、こころもちハスに構えたポーズや目元口元の表情、
やや逆光ぎみという難しい角度ながら的確に捉えられた微妙な陰影と光彩、
等々といったものが相まって絵姿のモリゾに生命吹き込み
のろをして彼女の瞳の輝きを想像せしめた、ということでございましょうか。

マネとほぼ同時代にあたるかのE.A.ポーの作品に、『楕円形の肖像』という小説がございます。
画家が美しい妻を、寝食を忘れ狂気のごとき熱中をもって描き
生き身そのものの素晴らしい肖像画が完成したまさにその時、彼女はこと切れた
というものでございます。
絵がモデルの魂を吸い取ってしまったということでございますね。

「すみれの~」には決してかようなおどろおどろしさはございませんけれども
この肖像を前にして、のろがかの小説を思い出したのは
魂が宿るかに見える、似姿のモリゾの生き生きした眼差しが
今まさに目の前に息づいている人間のような
きらきらしい生命感を発していたからでございましょう。

ちなみにこの肖像画を描いた3年後の1875年には、マラルメ訳・マネ挿絵による、ポーの『大鴉』が発売されました。
何と贅沢な。
売れ行きは良くなかったらしいのですが。

あと一回続きます。