読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

『パンとペン』

2011年03月16日 | 評論
黒岩比佐子『パンとペン』(講談社、2010年)

パンとペン 社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い
黒岩 比佐子
講談社

私と同世代の人が、文学者としての堺利彦という、これまであまり注目されてこなかった側面を、大量の資料を読破して、まとめたことに敬意を抱く。もちろん出版直後に亡くなったということも、その気持に拍車をかけているいることは言うまでもない。たぶん決して社会主義ということに共感を覚えたがゆえの執筆ではなくて、ペンでパンを得るということにたいする誇りをもっていた堺利彦にたいする共感からにせよ、これだけあれこれ言及され研究もされている堺利彦のモノグラフの欠けているところ、しかも堺利彦にとってけっしてどうでもいいようなものではなかった売文という仕事の全体像を丁寧にまとめたことの意義は大きい。

このことはこの本でも何度も強調されているが、こうした仕事が成り立ったのはやはり堺利彦という人間の人柄と人脈によるもので、それがなかったこれほど繁盛しなかっただろう。この本に出てきたので驚いたのは生田長江ともつながりがあったということだ。生田長江は私と同郷人で、堺利彦と同様に翻訳や女性解放運動にも関わりがあった人らしい。同郷人と言っても、私の故郷でそういったことが顕彰されるようになったのはつい最近のことだから、私自身が最近までほとんど知らなかったことなのだが。

生田長江についてはこちら。

この本を読めば、第一次共産党の結成に関わった堺利彦や山川均たちと片山潜との考え方の違いが分かる。堺利彦たちは明治時代から自分たちが進めてきた社会主義運動の必然的な延長線上に位置づけていたのだろうが、これに対して片山潜などは1917年に起きたソ連を中心にしたコミンテルンによって指令された革命輸出という位置づけでやっているのだから。堺利彦たちが解党宣言をするにいたったのも故なしと言える。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『志高く 孫正義正伝』 | トップ | ちょっと気になる話 »
最新の画像もっと見る

評論」カテゴリの最新記事