『疎外感の精神病理』(集英社新書・2023/9/15・和田秀樹著)からの転載です。
8050の嘘
前述の通り、2019年に中高年の引きこもりの人に関連した世を震撼させる事件が起こったために、それまでも話題になっていた8050問題が急激にクローズアップされたわけですが、現実の統計を見る限り、若い頃に引きこもり始めて、中高年になるまで引きこもっているというのはむしろレアケースです。
先に触れた2018年の内閣府の調査(40~64歳の引きこもりを含めた調査)では、初めて引きこもりになった年齢は19歳以上の人はわずか2.1%にすぎません。多い順では、60~64歳が17%、25~29歳が14.9‰、20~24歳および40~44歳が12・8%という結果でしたい。要するに、定年後、対人関係を好まず引きこもりになる人が一番多いということです。
その次が、おそらくは失業などによる引きこもりなのでしょう。
若いうちに引きこもりになり、それが続くというのはきわめて少数派なのです。
引きこもり期間についても30年以上というのは6.4%で、3~5年という人が21.3%と最多でした。
引きこもりの状態になったきっかけも多かった順に、「退職したこと」「人間関係がうまくいかなかったこと」、そして「病気」と続きました。(つづく)
これについては、大規模な調査がないので推測の域を出ないのですが、ひとり暮らしの高齢者は確実に増えています。
2019年の厚労省の統計では、約1488万の65歳以上の高齢者がいる世帯のうち、ひとり暮らしの高齢者世帯は約737万世帯にのぽりました。
人口の高齢化で高齢者世帯が増えていることもさることながら、核家族化で三世代世帯が激減し単独世帯が激増していることも大きな要因です。
1986年には「65歳以上の者のいる世帯」で「三世代で暮らす世帯」が4割を超えていたのに対し、2019年では「三世代世帯」には1割をきり、9・4%にまで落ち込んでいます。
それに呼応するように高齢者の単独世帯が激増しています。1986年に13・I%だったのが、2019年には28・8%にもなっているのです。
それはさらに増えていくでしょう。
もちろん、独居だからといって疎外感をみんなが覚えているわけではありません。
私も長年精神科医として高齢者と向きあってきましたが、ひとり暮らしになれてくると、それなりに疎外感を覚えずにのびのびと暮らす人は少なくありません。とくに女性はその傾向が強いようです。
しかし、その。一方で、失業して引きこもりになる人と同じように、定年後、独居でいると、どうせ自分は誰にも相手にされない、誰にも必要とされていないと世をすねたようになってかなりひどい疎外感を覚えて、引きこもりになる人も少なくない印象です。
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