『共感革命: 社交する人類の進化と未来』(河出新書・2023/10/24・山極壽一著)からの転載です。
なぜ人間だけに白目があるのか
人類が持つ大きな特徴として、白目が挙げられる。
相手の目の微細な動きから、他人の気持ちを推測できるのは、白目があるからだ。白目によって、黒目の向いている方向がわかり、相手がどこを見ているかがすぐわかる。人間だけが持っている能力、視線共有である。人間以外の霊長類で、こうした白目を持っているサルや類人猿はいない。類人猿も少し離れた相手とコミュニケーションをとる場合もあろか、白目を使うようには進化しなかった。
相手が見ている方向や対象には、何らかの意図が含まれているケースが多い。つまりそれには、相手の関心を引く何かがあるということだ。それは美味しい果実だったり、危険な外敵だったり、あるいは交尾の相手だったりする。その気持ちを仲間が瞬時に理解できるからこそ、集団的な行動が可能になる。
ここで間違えてはいけないのは、白目によって私たちは、相手の「考え」を読んでいるのではなく、相手の「気持ち」を読んでいる点だ。考えを読むのは「セオリー・オブ・マインド」といって、認知の向上が伴わなければできない行為だ。人類は言葉の獲得によってその能力を格段に高めた。しかし相手の気持ちを読むのはそれよりずっと前に進化した能力だろう。その結果、相手と一体化し、お互いの壁を乗り越えて行動を共にできるようなったのだ。
白目は視線共有をもたらして、相手の気持ちの読み解きに貢献し、共感力を高めるために使われている。白目は軟部組織のために化石としては残らず、いつ人類に現れたのか、正確にはわからない。だがゴリラやチンパンジーに白目がないことから、共通祖先から分かれたあとに現れた、人間だけの特徴だと考えられる。しかも世界中の人間がこの白目を持っていることから、ホモ・サピエンスが世界中に広がる前に、この自日が現れたと考えられる。共感力を高めながら、同時に人類の身体的特徴も変わっていったのだろう。
また、人間は簡単に真似する能力を持っている。悪口として「サル真似」という言葉があるが、サルに見たまま真似をする能力はない。人間は、頭の中であれこれと考えなくても、見たものをすぐに真似できる。それは相手の身体と自分の身体を即座に共鳴させられるからだ。つまり、すぐ相手の立場に立てるのだ。相手の立場に立つというのは、相手の身体を乗っ取るようなイメージに近い。真似は、人問だけに備わったとても優れた能力なのである。(以上)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます