仏教を楽しむ

仏教ライフを考える西原祐治のブログです

ネガティヴな感情の解放

2023年05月06日 | 日記
『物語がこころを癒す―メルヘンの深層心理』(1998/6/1・森省二・森恭子著)、随分以前、子ども向け物語、いじめや悪い描写が改変されていることを紹介したことがあります。桃太郎だと「鬼退治」が、「鬼が悪さをしている」と言った具合に、鬼=悪だと、鬼塚さんや鬼頭さんが傷つくからと言った塩梅でした。
標記の本には、悪態や殺す、やっつけるというメルヘンの中に説かれる悪い描写の意味について言及しています。以下転載します。



ネガティヴな感情の解放
 メルヘンの多くは、きれいごとでお茶を濁すような物語にはなっていなくて、嘘やペテンや裏切りといった悪行、怠けや喧嘩や無鉄砲といった愚行、盗みや虐待や殺害などの犯罪なども包み隠さず描いています。中には、『さるかに合戦』や『カチカチ山』のように、残酷すぎて目を逸らしたくなるようなストーリーもあります。
 ところが、子どもたちは、そういう悪行や愚行、残酷や悲惨などの、いわゆる“こわい”お話が大好きだから不思議です。そのことを心配する大人たちが、メルヘンは子どもに悪い影響を与えると考え、残虐な部分を意図的に書き換えたりした結果、まるで違ったストーリーになっている本や、絵本もあるくらいです。でも、それは邪道であり、大人が自分の子ども時代のことを忘れて、石頭になりすぎているのではないでしょうか。
 確かに、メルヘンに見られる残酷シーンは、近ごろ学校で問題になっている「いじめ」に通じるところがないとはいえません。しかし、ストーリーを読み進んでいくうちに、残酷さなどはほとんど感じることなく、ドナドキと胸に緊張感が伝わってくるのがわかるはずです。しかも、善人と悪人、正直と狡猾、やさしさと意地悪さなど、はっきりとしたコントラストがそれぞれの登場人物たちに与えられているため、子どもたちはどちらを応援すべきかを直観的に知ることができ、結果的には、「いじめ」を解決へと導く示唆を含んでいるともいえるのです。

 子どもたちは、いっも純真な心を持つ人使とは限らなしでしょう。やりたいことを禁じたり、望みをかなえてくれない親に対して、敵意どころか、憎悪さえ抱くことがあるし、また、上の子は、母親の愛情を奪った下の子に嫉妬して、「死んでしまえばよい」と思うことさえあります。
彼らはこのような、いわゆる。“負の感情”を自分でも受け入れがたく、不安に思います。その感情を大人がいたずらに押さえっけたりするだけだったら、子どもたちはますます不安をつのらせて、自分は悪い子だという罪悪感だけを深める方向に進んでししまうでしょう。
 メルヘンが、善いことだけではなく、羨望や嫉妬、卑下や忿怒といった悪い感情も、あたかも同等のごとく包み隠さず描き出すことが、ここでは大きな意味をもっています。それはメルヘンの語る、負の感情が、意識的な世界よりも無意識的な世界へと働きかけているからです。子どちかちか、メルヘンに接することで、そういう受け入れ難い。“”負の感情”が特別なものではないとわかれば心もなごむし、自分でも気づかない親子間や同胞間のわだか生りもまた、とけることでしょう。
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