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仏教ライフを考える西原祐治のブログです

ポジティブ心理学②

2022年12月21日 | 苦しみは成長のとびら

『ポジティブ心理学 科学的メンタル・ウェルネス入門』(講談社選書メチエ・2021/1/12・小林正弥著)からの転載です。

 

「幸せ」に向かう螺旋階段--「拡大―構築理論」

 

 ポジティブ感情はどのようなメカニズムで成功や幸福へと結びついていくのだろうか。その因果関係を理論化し、実験を通して実証したのがバーバラ・フレドリクソン(ノースカロライナ大学教授)である。彼女が科学的実験を通して打ち立てたのが、今ではポジティブ心理学の最も基本的な考え方の一つとして定着している「拡大―構築理論(拡張―形成理論)」だ。

 フレドリクソンは、大学生の二つのグループに、それぞれポジティブ感情とネガティブ感情を引き起こす映像を見せ、その後に広い領域と局所のどちらに視線が向くかがわかるように工夫された図を見せて、注意の向く先を調べた。すると、ポジティブ感情を引き起こされていたグループの方では、大きな構図に目を向ける人が多くなったのである。つまり注意力が[広がった]わけだ。さらに他の研究では、ポジティブ感情を抱くことで視覚的な注意の範囲が広くなっているグループの方が、言語的創造性を発揮することも確かめられている。こうしたさまざまな実験に基づく研究を積み重ねたフレドリクソンは、ポジティブ感情を持つことが人間の精神を開放し、認知や注意力、視野などを拡大し、何かに新しく気づいて考えることを可能にするという一連の心理的ステップを解明したのである。

 まずポジティブ感情を出発点とし、そこから成功の基盤となる幅広い視野や注意力、関心などを養う。これらが培われることによって、学力や仕事上の能力が高められる。能力が向上するから、実際に成功する。成功すればうれしいから、それがまたポジティブ感情を増やす。この流れが再び同じ循環を呼び起こし、さらなる視野の拡大、能力の向上、成功、喜びへとつながるllこのように、個人の中にポジティブ感情を出発点とする上向き螺旋のような発展が起きて幸福に至るというのが「拡大’構築理論」の概要だ。

 彼女はまた、ポジティブ感情を感じている時間とネガティブな感情を感じている時間的比率をポジティビティ比と呼び、それが一定よりも大きいと幸せになる傾向が高いことを明らかにした。その閾値とされた数値は後に撤回された(九二~九三頁)ものの、ポジティビティ比が高い方が幸せになる傾向が高いという主張は今でも大きな意味を持つ(※)。

 

  ※ただし、ポジティビティ比が極端に高い場合、幸せに向かうとは言い難い。例えば、極端に高くて持続的なポジティブ感情は、双極性障害(躁うつ病)や熱狂のような心理的問題につながりかねない。また、近親者が亡くなっ  た時のようにネガティブな感情が避けがたい場面で無理にポジティブ感情を喚起しようとすれば、顔面に笑顔を貼り付けたような心理状態が生まれることもある。

 

先のセリグマンらによる楽観主義と健康・幸福の咽果関係についての研究にせよ、フレドリクソンの「拡大-構築理論」にせよ、起点にあるのは「心」だ。それを前向きで明るいものにすることが健康や能力を高めることにつながり、人に成功や幸福をもたらす。それを明らかにしたことにより、ポジティブ心理学は大きく発展すると同時に一般にも広く知られるようになったのである。(つづく)

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