旅限無(りょげむ)

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ザルカウィ死して後 其の弐

2006-06-30 07:56:21 | 外交・情勢(アジア)
■アフリカ沿岸からインド洋を経て東南アジアを通過して北京にまで広まっていた伝統的なイスラム商人のネット・ワークを思い出せば、イスラム教徒の多くが移民だっただろうと想像はつきます。考えて見れば、欧州からの移民によって建国されて膨張し続けたアメリカ合衆国と、アフガニスタンに集まったイスラム兵士達が対立するというのは、単に米国の邪悪なマッチ・ポンプ戦略だけでなく、もっと古い歴史的な皮肉を感じますなあ。

■「アブアイユーブ・マスリ」がアイユーブとエジプトに関連するのなら、これは「十字軍」を思い出さねばなりません。


98年2月23日、「ユダヤ人・十字軍聖戦のための世界イスラーム戦線」なる組織がファトワー(イスラム法的判断)を発表した。このファトワーにはウサーマとザワーヒリーをはじめ、ガマーア・イスラーミーヤのリファーイー・ターハやパキスタン、バングラデシュなどのイスラミスト組織の代表が名を連ねていた。このワトワーで、「アメリカ人とその同盟者を民間人・軍人を問わず殺すことは、それが可能なすべての国にいるムスリムの個人的義務である」ことを宣言したのである。

これも石野肇さんの本からの引用です。日本は、アジアの国なのに、何故か学校教育の現場で「十字軍」や「レコンキスタ」を目出度い話として教わっているような印象が有りますなあ。クリスマスだのセント・バレンタインだの、結婚式もキリスト教風が好まるのですから、「十字軍」やイエズス会の世界的な布教活動も、何処か勇気ある冒険物語のように受け取っているのかも知れませんなあ。自らを十字軍に擬(なぞら)えたブッシュ大統領を無条件で全面的に支持する総理大臣が出るのも必然的だったのかも知れません。

■更に歴史を詮索すれば、「アイユーブ」という名前はイスラムの英雄サラディン(サラーフ・アッディーン)が開いた王朝名に重なります。サラディンは今、話題のイラク北部で頑張っているクルド人です。クルド人とトルコ人を中核とする勇猛な軍団を率いて、エジプトを支配していたイスラム教のファーティマ朝を滅ぼし、1187年には第2回十字軍の残存勢力を追い出してエルサレムをイスラム教徒の手に奪回しました。1189年から始まる第3回十字軍とも互角に戦い抜き、英国のリチャード1世との和議を成立させています。今度現われたザルカウィの後継者は、自らをサラディンに擬えるのならば、エルサレム奪回と十字軍との和議を再び実現させる心算なのでしょうか?

■十字軍の歴史が今も生々しく中東地域に政治的な影響力を持ち続けているニュースも有りましたぞ。オスマン・トルコとロシアが英仏を巻き込んで戦ったクリミア戦争は1854年、そこで敵味方の区別無く献身的に治療をした英国人のナイチンゲールさんの活動が発展して組織されたのが「国際赤十字」でしたが、その活動理念の根本はキリスト教に由来する博愛主義なのだそうです。しかし、十字軍と戦った側の者には、キリスト教の博愛主義は認められないのですなあ。それに加えてユダヤ人絶滅を企てたナチス党員の多くが敬虔なクリスチャンだったものですから、ユダヤ人もキリスト教が嫌いです。そういう背景が有るので次のようなニュースが伝わるのです。


国際赤十字・赤新月社運動の最高決定機関、赤十字・赤新月国際会議は22日、イスラエルの「ダビデの赤盾社」(マゲン・ダビド・アドム)とパレスチナ赤新月社の加盟を承認した。ただ、イスラム諸国の反発で協議は紛糾し、承認は同会議としては異例の採決にもつれ込んだ。イスラエルとパレスチナの緊張が続く中、双方の人道活動での協力などが進む可能性は低い。……イスラエルの赤盾社は同国の建国前からの活動の歴史を持つが、キリスト教、イスラム教をそれぞれ象徴する赤十字・赤新月のシンボルの使用を拒んできたため、加盟できなかった。昨年12月のジュネーブ条約締結国会議で、第3のシンボルとして赤いひし形(レッドクリスタル)が承認され、加盟の道が開けた。同時に、イスラエルとの公平性を保つため、独立国の組織ではないパレスチナ赤新月社の加盟も特例的に認められる事になった。……6月24日 朝日新聞

■大人の判断で長い歴史の歪みを清濁併せ呑んで見せた快挙のように思えるのですが、記事にはシリアなどの強硬派が東エルサレムなどの帰属問題を蒸し返して、イスラエルとパレスチナの同時加盟に文句を言い出しているとの話も出ています。

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