旅限無(りょげむ)

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ザルカウィ死して後 其の壱

2006-06-28 10:20:10 | 外交・情勢(アジア)
■莫大な懸賞金を懸けて追い回していたザルカウィ容疑者の遺体が確認されたのは6月8日でした。ブッシュ大統領は大喜びで、これでイラク攻撃の大義も立って中間選挙も有利に戦えると思いたいようですが、ザルカウィに勝るとも劣らない凶悪なテロリストはまだ40人以上も活動しているのがイラクの現状だとも言います。今回の空爆による殺害にしても、米軍の探索部隊が見つけたのではなくてザルカウィの身近に居た者が内通者となったという情報も有ります。6月15日の朝には「米軍兵士・国防省文民職員の死者」が2500人を突破したとの発表も出ましたから、米軍は苦しい立場に置かれているのは間違いないようです。

■同じ15日には、ザルカウィの後継者とされるアブアイユーブ・マスリというエジプト人の顔写真が公表されたのは皮肉な話のようでもあり、手回しが良過ぎて逆に米国の情報機関が暗躍しているのではないか?と疑いたくもなります。聖地を荒らす異教徒の米軍だけを標的にしている内は隠然たる人気を得ていたザルカウィも、米軍を攪乱して自己保身に走り出すと、シーア派とスンニ派の対立を煽ってイラク住民を更に苦しめているだけとなれば、支持者の数も減るし身近に内通者が出て来たりもするのでしょうなあ。


幹部のザルカウィ容疑者が米軍の空爆で殺害された「イラク・アルカイダ機構」を名乗る声明が12日、インターネット上に掲載された。「アルカイダ機構の評議会は、アブハムザ・ムハージルをザルカウィの後継指揮者とすることで合意した」としている。この人物の詳細は明らかになっていないが、「ムハージル」はアラビア語で「移民」を意味する。……2006年6月14日 朝日新聞

■この小さな記事が掲載された3日後、AFP時事から「アブアイユーブ・マスリ」というエジプト出身者の顔写真が公開されました。米軍とイラク政府の両方から、先に発表された「アブハムザ・ムハージル」はマスリと同一人物だとの発表が有ったのだそうです。「アブアイユーブ・マスリ」というのはアラビア語で「アイユーブの父のエジプト人」という意味だそうですが、これも本名ではなさそうです。先のザルカウィはヨルダン人で実家はヨルダン政府に四六時中監視されていたようですが、このエジプト人の故郷で何が起こっているのかは分かりません。


……米軍によると、アフガニスタンに渡ってザルカウィ容疑者らと知り合い、02年ごろイラク入りして爆弾製造やテロ計画にかかわったといい、「アブ・マスリ」とも呼ばれる。……

■この二つの小さな記事から歴史の断片を連想しました。


……ビン・ラーディン家は古くはアラブの大詩人イムル・アル=カイスを祖先に持つとも言われる家系であるが、現在のビン・ラーディン家のすべては、ウサーマの父ムハンマドが故郷のイエメン東部ハドラマウト地方から職を求めてサウジアラビア・ヒジャーズ地方のメッカに移住してきたことに始まる。「ハドラマウト」という地名は、古代ギリシアの地理書はもちろん、聖書の創世記にすら登場するという説があるほどの古い歴史を持ち、よく「死の存在する場所」を意味するアラビア語だと説明される。だが実際には、アラビア語よりも昔にこの地で話されていた古代南アラビア語で「灼熱」を意味しているというのが学問的な定説である。……イスラーム教の巡礼者が集まる紅海沿岸のヒジャーズ地方は、距離的な近さもあって、多くのハドラマウト移民が移り住んでいた土地であった。これらの移民「ハドラミー」は、ビン・マフフーズやビン・ラーディン、ビン・ダーイル、ビン・ザグル、ブグシャーンなど、今日のサウジで企業家一族として知られる数多くの成功者を輩出した。……

これは『ウサーマ・ビン・ラーディン その思想と半生』石野肇著(成甲書房刊)の一節です。

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