旅限無(りょげむ)

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チャイナの陸路と海路 其の弐

2010-03-19 15:02:52 | チベットもの
■今度はチャイナの海の道を考えますが、鳩山サセテイタダク首相が熱烈に提唱する「東アジア共同体」構想の圏外にまで延びる現代版「鄭和の大航海」が幕を開けているのであります。インド洋から強引に自衛隊を撤収させた民主党政権は、それを手放しでお祝いするのか?それとも遅ればせながら警戒して対抗手段を考えるのか?沖縄の吉問題にも直結する遠大な話なのですが……。

中国人民解放軍の将官は最近、メディアに頻繁に登場し、外交・安全保障政策について積極的に発言しており、国内外の注目を集めている。政府の立場より一歩踏み込み、対外強硬姿勢を示すことがほとんどで、愛国主義教育を受けた若者から支持を受けている。これまでは沈黙することが多かった“制服組”が、同じ時期に一斉に政策に口を出すことは異例だ。今年の国防費予算の伸び率が22年ぶりに一けたに抑えられたことを受け、軍備増強の必要性を強調し、軍の存在感をアピールする狙いがあるとみられる。

■戦前の日本でも軍縮予算を組んだ首相が何人も暗殺されるという暗い事件がありましたが、大日本帝国で軍事クーデターを最初に企てたのは5・15事件を起こした海軍の若手将校達だったことを忘れては行けません。チャイナの人民解放軍は毛沢東時代から陸軍中心で構成され発展して来た歴史がありますから、実際に軍功を立てた経験のない海軍の中には、一刻も早く大きな勲章が欲しい!と本気で焦っている輩が居ないとも限りませんぞ。


2010年の国防費が発表される前日の3日、政府の諮問機関、全国政治協商会議の委員を務める羅援少将は、北京紙、新京報などの取材に応じ「今年の国防費の伸び率は例年と比べ抑えられる」と言明。「台湾、チベットなどの独立問題を抱え、国家分裂の危険に直面している中国には、国防を増強しなければならない理由はいくらでもある」と述べた。この発言は、国防費の伸び率が09年の約14%から、今年は7・5%に抑えられたことに対する「軍の不満を表している」と解釈する香港記者もいる。

■軍備の増強を何年も続けると抑制が効かなくなり、軍部はもっともっと増額しないと「戦争に勝てないぞ!」と騒いで政治家を脅すことになります。日本では犬養毅と浜口雄幸が軍事予算を削減しようとして暗殺され、それ以降の内閣は軍部の圧力に屈してずるずると対米戦争に引きずり込まれて行った歴史があります。今のチャイナ軍は予算が削減されたわけではなく、伸び率が半分になっただけで「不満」を鳴らしているのですから贅沢なものであります。本気で世界一の軍事大国アメリカと力で対抗しようと真面目に考えている人物が居そうです。


これに先立ち、国防大学の朱成虎少将は、2月に発売された週刊誌「瞭望」で、米国による台湾への武器売却問題について「米国に『台湾関係法』などが存在していることが問題の本質だ」と指摘。外交交渉を通じ米国に、中国の国益に損害を与える法律を改めさせるべきだと主張した。……中国外務省の対米政策を「弱腰」と批判するネットユーザーの熱烈な支持を受けた。朱少将は05年夏、「米政府が台湾海峡での武力紛争に介入した場合、(中国は)核攻撃も辞さない」と発言したことで注目された。

■北京政府が最も嫌うのが自国への「内政干渉」なのに、この少将の発言は露骨な米国に対する内政干渉そのものです。今の胡錦濤政権では軍部を制御できない弱点があるようですなあ。人民の怒りが爆発しない程度の経済成長を維持するのに精一杯で、軍に対して無関心だと思われるともっと危ない事になりますから心配なことであります。日本の自衛隊では友愛首相の妄想をちょっと批判しただけで大目玉を食うというのに、チャイナの軍人は「核攻撃も辞さない」などと放言しても賞賛の声しか起らないようですなあ。


……海軍情報化専化諮訊委員会主任の尹卓少将は昨年末、「アデン湾(イエメン沖)での護衛任務をスムーズに行うため、中国はインド洋沿岸に補給基地を設ける必要がある」とメディアに語り、世界から注目された。しかし、中国国防省はその後、「海外に海軍基地を建設する計画はない」と釈明した。

■チャイナの特色ある文民統制のようにも見えますが、外交と軍が一体の国では茶番劇にしか見えません。実際に日本が手を引いたインド洋はあっと言う間にチャイナの海に様変わりしてしまったようですから、専用の軍港を持たずとも莫大な経済援助と引き換えに重要な港を自由に使えるようにしている実態を考えれば、国防省の言い訳は空疎に感じます。


軍将官による一連の発言は、10年の予算を審議する全国人民代表大会のみならず、現在策定中である次期5カ年計画の予算案を意識したものだ、という指摘もある。民族主義の観点に立った発言によって世論を味方につけ、予算をより多く獲得する思惑がありそうだ。中国のメディア関係者は「軍人から政府の方針と違う発言が飛び出すことは毛沢東、小平時代には考えられなかった。江沢民時代も少なかった。今の胡錦濤政権が軍を押さえられていないことを象徴しているかもしれない」と分析する。
2010年3月15日 産経ニュース

■民族主義を強調すると膨大な数の「少数民族」が怒りを感じる可能性がありますから、北京政府は苦々しく思っているのでしょうが、もしも大規模な暴動が起ったら、最後に頼れるのは軍隊だけですから、強きの発言を続ける軍部の方に分があることになります。欧米諸国がチャイナの急激な軍備拡張に何度も警鐘を鳴らしているのは決して杞憂ではありますまい。鳩山サセテイタダク首相の友愛外交にはまったく影響を与えていないのが奇妙ではあります。

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