旅限無(りょげむ)

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北京五輪の内と外 その弐百四拾参

2008-05-23 21:07:15 | チベットもの
……チベット亡命政府によると、チベット自治州西隣の甘孜チベット族自治州北部の甘孜県で今月17~18日にデモがあり、計12人が武装警察に身柄拘束された。同県では緊張が高まっており、当局は住民の行動を厳しく制限しているという。一方、中国メディアは21日、パンチェン・ラマが同日、北京のチベット仏教寺院で行った法要の模様を伝えた。チベット族側の動きを伝えるのは、地震をきっかけに「民族の団結」を強調する中国当局の狙いを反映したものとみられる。
5月22日 毎日新聞

■便利に使いまわされる若きパンチェン・ラマの姿を、チベット人は常に複雑な思いで見つめているはずです。御本人には何の責任も無いわけですから、変な客寄せパンダみたいな扱いをして見世物にすればするほど、チベット人の怨念は深まって行くという道理が、北京政府のエライ人達には分からないようです。その一方で、大きく動いた活断層の西側には、医者であろうとボランティアであろうと、海外の目は一切入れない!という徹底した情報管制については、しっかり注意を払っていなければなりません。海外のメディアを完全に閉め出して、好き放題に「治安活動」に勤しんだチャイナの武装警察は、その任が解かれる前に今回の大震災に遭遇しているわけですから、ラサ争乱以降「情報が入手できない!」と世界中のメディアが非難していた事情は何の変化もありません。

■東京の大使館で警備の機動隊員を切りつけた犯人の身元が判明したようです。


23日午後3時10分ごろ、東京都港区元麻布の中国大使館前で、警戒中の警視庁機動隊員(25)が男にカッターナイフで首を切りつけられた。機動隊員は軽傷。男は近くにいた機動隊員に殺人未遂と公務執行妨害の現行犯で逮捕された。……男は小平市の救護施設に住む無職の52歳。統合失調症で精神科に通院していた。「警察官になりたかったがなれず恨んでいる。殺せ殺せという指令があった」と供述しているという。男は通用門を1人で警備していた機動隊員に歩いて近づき、無言で切りつけたという。前日夕方から施設を抜けだし行方が分からなくなっていた。

■警察官に対する尊敬の念と、就職願望を強く持っている男は多いようで、採用されなったという理由で時々変わった事件が起きるのは確かです。そして、「統合失調症」というのは、以前は精神分裂症と呼ばれていた発作的に意識が混濁する病名だと思いますが、症状の軽重には素人には分からない幅があるようです。人の精神に何が起こるかを科学的な尺度で完全に計量するのは不可能でしょうから、病名が付けられていない人が、「カッとなって」殺人を犯すのは珍しくはありませんし、正式に病名を付けらても、社会生活に支障がない程度までに治癒する人も多いようです。

■皮肉な言い方をすれば、この時期に反チャイナ、反北京五輪の行動を起こしたのが精神的な疾患を持っている人だったとすれば、福田内閣としてはちょっと安心という事でしょうか?でも、本人は警察官になれなかった恨みから凶行に走ったと言っているように報道されていますなあ。本当にそれ以外の事は言っていないのかどうかは、今のところは不明です。


「何をするんだ」 機動隊員の叫び声が人通りのない中国大使館前に響き渡った。首は血で赤く染まっていた。男は小型のカッターナイフを握り、なおも機動隊員に覆い被さった。現場は六本木ヒルズの南約500メートルの住宅街。……大使館周辺は普段から厳重な警戒態勢が敷かれている。叫び声を聞いた他の機動隊員らがすぐさま駆けつけ、男を同僚から引き離した。男はガードレールに押さえつけられても暴れながら大声でわめき続けた。機動隊員はのどぼとけの上を約10センチも切られていた。

■とにかく、致命傷にならなかったことのは幸いでした。お見舞い申し上げたいと思います。機動隊員の装備を考えれば、正面からの喉元に対する攻撃は恐ろしいものでしょう。咄嗟に身をかわしたのならば、日頃の鍛錬の賜物です。


男は、身体や精神上に障害がある人を保護する救護施設に平成9年から入所していた。施設長の男性は「(男は)入所はしているが精神的に落ち着き、しっかりしていた。なぜか分からず、とても驚いている」と話している。
2008年5月23日 産経ニュース

■こういう場合、「精神上に障害がある」という一言が、この人物から発言権を奪ってしまう場合が多いようです。救護施設で、どんなメディアから情報を得ていたのか?それ以前にどんな本を読んでいたのか?等々、興味のあるテーマが数多く出て来ますが、ややこしい話が飛び出して来る前に、「健康上の理由」を楯にしてマスコミは御役御免を決め込みそうであります。どこのメディアが真相に迫ってくれるのでしょう?

北京五輪の内と外 その弐百四拾弐

2008-05-23 20:00:10 | チベットもの
■チャイナ関連のニュースと言えば、パンダ大震災の救援活動しか無いような事態になっております。何処かの国とは違って民主国家の日本であれば、新聞・テレビ・ラジオなどの古いメディアからインターネットなどの新しいメディアまで、入れ物としては豊富な「数」が揃っているのに、不思議な話ですなあ。随分と昔の話だと誰もが思っている福田ホイホイ首相の訪中から、まだ半年も経っていませんし、傍迷惑な聖火リレーが羽田に下りて長野市で大暴れして去ってからも、まだ一ヶ月とは経っていない!

■大手新聞には政治面というものが存在しているのに、福田内閣成立から、長野市での聖火リレー争乱?までの経過をきっちりと外交的な意味を解きながら「後始末」をしようと努力している所はあるのでしょうか?長野市でのリレー商売は無難に成功させたような話が流されて、福田ホイホイ外交の追い風にでもなったような報道が目立ったのは記憶に新しいところですが……。


23日午後3時10分ごろ、東京都港区元麻布の中国大使館前で、警戒中の警視庁機動隊員が日本人の男にカッターナイフのような刃物で首を切りつけられた。機動隊員は軽傷で命に別状はないという。男は殺人未遂と公務執行妨害で現行犯逮捕された。麻布署で男
2008年5月23日 産経ニュース

■何の愛想もないチャイナの大使館ではありますが、その門扉を警備している日本の機動隊員の皆さんは、決して政治的な信条で各大使館前に配置されているわけではないはずです。さらに極論すれば、総理や閣僚になった政治家の自宅前に詰めている警察官も、それぞれの政治家を尊敬しているわけでも、支持しているわけでもないでしょう。少なくとも、「大津事件」のような困った事件を起こす心配の無い人が選抜されているだけでしょう。

■パンダ大震災の緊急救助作業で、日本に対する感情がチャイナ国内で急激に好転しているなどという、ちょっと信じられないようなヨタ話がニュースとして配信されている昨今ですから、政局絡み・派閥絡みの底の浅い政治ニュースを報道しているマスコミに目と耳を奪われていると、日中両国間に淀んでぶすぶすとガスを噴出しているような不信感や嫌悪感の存在をころっと忘れてしまう危険がありますなあ。「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い!」とは言いますが、少なくとも厚待遇の天下り人生は望めないような現場で汗をかいている公務員を襲うのは止めましょう!かと行って、偉そうなキャリア官僚ならテロの標的にしても良い、という話ではありません。念のため……。

■「チベット問題」の事などころっと忘れて、海水パンツの素材だの、次の大会では無くなる野球の組み合わせがどうだのと、金メダルの皮算用に五輪大会の報道が偏りつつある日本ですが、欧州ではますますチベット問題が過熱しております。この違いは何なのでしょう?単に「熱し易くて冷め易い」というだけの事では無いかも?と、このところ厚労省前や社会保険事務所で怒っておられる御高齢の諸先輩方を取材したニュースを眺めながら考えてしまいます。

■「後期(末期)高齢者医療保険制度」は、10年も掛けて練り上げられた難攻不落の悪法で、これを最終的に仕上げて法案を成立させたのは小泉厚生大臣だったわけです。その後、どれほどマスコミの政治記者が吉本新喜劇みたいなガセネタ記事を書き殴っていたとしても、「純チャーン」と叫んで手を振り携帯電話のレンズを振り回していた人達の中に、確かに御高齢の方々が目立っていた記憶があります。郵政民営化選挙、別名「刺客選挙」の大騒ぎの中で、小泉自民党を大勝させた人達の中に、近々年金生活を始める人や既に高齢者医療制度を利用している人達が多数含まれていたのなら、これが日本の民度・民主主義なのだと、静かに覚悟を決めておかねばならないかも知れません。恐ろしいことではありますが……。

■日本では忘れ去られたも同然のチベット問題に戻ります。旅限無としましては、今日のチベットは明日の日本だ!などと乱暴な事は申しませんが、明後日か明々後日くらいには危ないかも……。


中国・四川大地震で、インドのチベット亡命政府は21日、全世界のチベット人に独立などを求め中国大使館前で行っているデモを当面中止するよう呼びかけた。多数の被災者がいる中で抗議を続ければ、逆にチベット人への反感を招きかねないとの判断とみられる。一方、チベット仏教界トップで亡命中のダライ・ラマ14世側と、ナンバー2として中国政府が認定したパンチェン・ラマ11世側が、インドと中国で犠牲者の追悼法要を営んでいる。……21日に出した声明で亡命政府は「中国を襲った未曽有の災害の被災者に連帯を示すため、大使館前のデモを少なくとも今月末までは見合わせるべきだ」とした。

■在日本のチャイナ大使館前で凶行に及んだ人物が、こうした情報をしっかり認識した上で、決心したのだとしたら……。でも、同胞を傷つけては行けません。絶対に!勿論、戦争でもない時に外国人に武器を向けるのも行けませんぞ。でも、ホイホイ外交に業を煮やして暴発するエネルギーが、日本のあちこちに溜まっている可能性は否定できませんなあ。