旅限無(りょげむ)

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北京五輪の内と外 その弐百七

2008-05-04 08:53:30 | チベットもの
■ラサ市よりも先に騒動が起こった青海省同仁県のロンウー寺で、ラサ騒乱の数日後にさらに大きな騒動が起こった話です。

3月17日
隆務寺の僧侶全員が、ダライ・ラマを祝福する仏事をおこない、その後市内で民衆とともに平和デモを行った。周囲の民衆がみな泣いて止めようとするなか、ある僧侶は憤怒のあまり自ら手首を切る……。軍警は高度の警戒態勢……。同寺のシャリツァン活仏の調停により、地元政府に対し、軍は寺院をパトロールせず、寺院内に設置された監視カメラも撤去し、道理のとおらない仏事の妨害を禁止すると申し入れ、当局も同意した。しかし、その日の午後、地元当局者による工作チームがチベット各家庭をまわり、以後デモ抗議活動に参加しないとの保証書にサインをするよう迫り、18日から西寧の特別警察部隊を現地に配備……4月15日、当局は2・11事件において、殴られた老人や僧侶を再び逮捕拘留……当日抗議した僧侶、民衆らを拘束し続け、当局と意見の異なる人たちについては厳密な監視、コントロール……。

■ロンウー寺は地元でも有名な寺院ですから、ラサ騒乱の1週間後にこうした「平和デモ」を行えば、相当の影響力を持ちます。ゲルク派の伝統をしっかりと守って仏教修行のカリキュラムを堅持しているお寺なのですが、境内を歩けば文化大革命の際に受けた大規模な破壊の跡が今でも生々しく、浄財を集めてこつこつと復元作業が行われていたりします。比較的平穏な時期ならば、遠くラサ市やインドの寺院とも交流して仏教研究に寄与している有力なお寺ですから、学僧が「手首を切る」ような絶望的な状況になるのは非常に悲しいことです。近くには他派の寺院も点在し、タンカ(仏画)文化に関しても高い評価を得ている地域ですから、無粋な公安警察がずかずかと入り込むと、不測の事態が起こる可能性が高いわけであります。


3月23日
中国モバイルチベット分社がラサ市民にむけて、携帯電話のショートメッセージを発信。「公安当局はここに告げる:3・14事件の犯罪容疑者は、即刻自首すれば、寛大な処置をとる。広大な市民は積極的にてがかりを提供せよ。通報電話は……あるいは110番へ。」

甘粛省甘南チベット族自治州の携帯ショートメッセージ「最近わが州で発生した打ち壊し略奪焼き討ち破壊活動は域内外のチベット独立勢力の計画、煽動によるもので、中央、省、州はすでにこれを打ちのめし、法に従い厳しく懲罰することを決心している。(甘南州治安維持事務所)」

チベットテレビ局文芸チャンネルとラサテレビ局は、チベット語、漢語のバイリンガル放送で、ラサ市公安局の第7号指名手配を発表、……45人のチベット族が指名手配されたことになる。うち一人は僧侶、6人が女性。3月19日に第1号指名手配が公布されてから一日平均9人が指名手配されている。

■携帯電話には、こういう使用方法が有るのですなあ。日本なら「回覧板」みたいな物ですが、私有物の携帯電話に送りつけられるのですから、強圧的な印象が強い!IT技術が脅迫の道具に使われている。それも情報統制を布いている国家権力が自由自在に利用しているのですから、何とも気味の悪い話です。


3月24日
ラサは依然、軍警が配置され、チベット族居住区は、電子カードによる住民管理が行われている。他のチベット族居住区も。連日、アムド(甘粛省甘南藏族自治州州府)合作市、や陝西省から軍隊がやってきて、パトロールし、チベット族の態度の良しあしを調べている。理由無く欲しいままにチベット族をなぐることも日常的だ。昨日、合作市の運転免許学校の4人のチベット族学生が、兵士に呼び止められ跪くよう命じられ、動作がのろいといって殴られた。……

■「国を失う」という現実は、このように歴史書や教科書には載らない屈辱的な事件の堆積物となって現地の人々の心に沈殿して行くのでしょうなあ。ダライ・ラマ法王は、「二級市民の扱い」という控えめな表現を使っていましたが、海外メディアが入り込めない場所で行われている差別的な弾圧行為は、遥かにおぞましいものだという事です。