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極楽飯店.62

※初めての方はこちら「プロローグ」「このblogの趣旨」からお読みください。

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熱意は嬉しいけど言葉が難しくてよく分からないと、熱弁を奮う閻魔をよそに藪内は煮え切らない表情を続けたままだ。

「あ、いや……。なんかすいません。バカで」

微妙な間が漂う中、突き出した首をひょこひょこ上下させて藪内が謝る。

対する閻魔はといえば、そんなに難しいことを話しているつもりはないのだけどもと、こめかみに人差し指をあてていた。

いや、まぁ、確かに。どちらの気持ちも分からないではない。

藪内は元よりメンバーは皆、閻魔はこの先どうするのかと上目使いで次を待った。


よし。

閻魔が一人頷き手を打つと、「ならば」と藪内に問い掛ける。

「じゃあ今度は難しい言葉を使わずに話そう。ねぇ翔ちゃん、もしいま君の右手の甲が痒くなったらどうする?」

意図の見えない問いに、藪内は顎を突き出したままの姿勢で眉間に皺をよせた。

「え? いや、どうするもこうするも……、痒かったら、掻きますけど?」

どうやって?と、さらに閻魔の問いが被さる。

すると藪内は、こうやって、と大げさに手を前に出し右手の甲を左手で掻いて見せた。

閻魔がうんうんと満足げに微笑んでいと、すかさず坂本が突っ込みをいれた。

「なんだそりゃ。新手の公案(禅問答)か」

閻魔はそういうことじゃないと、ハードボイルドを気取ってチッチと指を振る。

「ねぇ翔ちゃん。もしもだよ、君の右手と左手が独立して自意識を持っていたらどうなると思う?」

「え?」

「もし右手が翔ちゃんで、左手がタクちゃんだったらどうなると思う?」

そうきたか、と坂本が笑った。

右手は右手自身で自分を掻くことができない。左手、もしくは他の部位などの助けがあって始めて搔くことができる。

が、もし身体の部位それそれが分離意識を持ち、それぞれが「自分」という感覚を保有していたとするなら厄介だ。

「個と全という言葉で話したかったのは、大雑把にはそういうことなんだ。決して難しい話しじゃない」

その言葉に、ようやく藪内もなるほどと頷いた。

それを確認すると閻魔は「じゃ、そろそろもう一度あそこへ行ってみようか」と言いながら大きく手を振った。

「え? もう一度って、どこへ?」

田嶋が、まさか景洛町ってことはないですよね、と恐る恐る確認すると、閻魔は「プリズムの向こうだよ」と光のドアを創り出した。

「やっぱりさ、言葉でアレコレ説明されるより、どっぷり体感しちゃった方が早いでしょ。このドア何度か往復したら、これまでの話しはもちろんそれ以上の理解も深まるからさ」

「じゃあ、最初からそうしてくれれば良かったじゃないっスか」

藪内が尤もな突っ込みをいれたが、「でもそれじゃ君たちが人間界に行った時に、説明の仕方に困るでしょ」と軽くあしらわれた。

「こうしてこの部屋で話す以上に、人間界とのやりとりは厚い壁に阻まれているんだから。コミュニオンの体験だけじゃなく、コミュニケーションの方も考慮に入れとかなきゃ」というのが閻魔の言い分ではあったが、それが本当かどうかは俺たちにはまだ分からない。

とにかく俺たちは、その後も閻魔から聞かされる話しと源(ソース)への往復を繰り返し、存在の全てが神(愛と同義)であること、苦悩は分離意識を発端とした錯覚によって生まれること、また、その錯覚の多様性、そして、時間や空間という認識すらも幻想の世界であること等を学んだ。

そして、

「うん。みんなもいい感じに繋がってきたみたいだね。じゃ、そろそろ行ってみようか。人間界に」

その告知は、やはり突然に訪れた。



……つづく。




じゃ、そろそろ行ってみようか。福岡に。


ということで、久方ぶりのソロライブもいよいよ明後日。

福岡でお会いします皆様、どうぞよろしく!



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